血糖値を下げましょうというお話を良く耳にします。
なぜ血糖値が高いと良くないのでしょうか?
今回は糖尿病のメカニズムについてお話しします。
目次
血糖値とは?
そもそも血糖値とはなんでしょうか。
身体にとって糖分はエネルギー源になります。
糖分を身体の隅々に行き渡らせる為に、血液中に糖分があります。
しかし、血中にあるだけでは身体のエネルギーとして利用できません。
血液中から細胞に取り込まれなければ、エネルギーとして使うことができません。
インスリン
糖が血中から細胞に取り込まれるには、インスリンと呼ばれるホルモンが必要になります。
インスリンは身体の中で、膵臓と呼ばれる臓器で作られます。
インスリンは血糖値を下げる作用で有名です。
あれはインスリンが血中の糖分を細胞に移した結果、血中の糖分が少なくなるのが理由です。
実は血糖値を下げる主なホルモンは身体の中でインスリンしかありません。
つまり、このインスリンが上手く働かないと血中の糖が細胞に取り込まれずにエネルギーとして利用出来なくなってしまいます。
これがいわゆる糖尿病の状態です。
今回は、生活習慣が原因の2型糖尿病を中心にお話します。
なんで生活習慣で糖尿病になるのか
2型糖尿病はインスリンが上手く機能しないケースやインスリンが少なくなるケースが多いです。
生活習慣や加齢で膵臓が疲れてしまい、インスリンの量が少なくなったり、肥満や運動不足によりインスリンが効きにくくなったりするのです。
なぜインスリンが効きにくくなるのでしょうか?
食べ物を食べたら血糖値が上がります。
すると、血糖値を下げる為にインスリンが分泌されます。
規則正しい食生活をしていれば、適度なインスリン量で済みます。
しかし、過剰な糖分や過度な間食などで常に血糖値が高い状態だと、通常よりも更に多くインスリンを分泌して対処しようとします。
インスリンには血中の糖を取り込むだけではなく、脂肪の合成も高めます。
脂肪はインスリンの血糖値の低下作用を鈍くしてしまいます。
そうなると悪循環に陥ります。
食生活が良くない人は、この悪循環の上に更に脂肪合成を促進させるような食生活を送っている人が多いです。
ここから抜け出すには生活習慣の改善が効果的です。
運動は血糖値を下げる
運動は血中の糖をエネルギーとして利用します。
つまり、運動はインスリン以外で糖を取り込む数少ない方法と言えます。

習慣的に運動している人はインスリンが効きやすくなります。
運動で糖の取り込みが促進されていると、インスリンの量も少しで済むようになるので、脂肪合成が抑えられ、好循環が生まれるのです。
ここでおさらいですが、生活習慣が原因の糖尿病は2型糖尿病です。
つまりインスリンが過剰であるケースが多い為、肥満であるケースが多いのです。
1型糖尿病の人はインスリンが絶対的に不足しています。
ですので、1型糖尿病で肥満は少なく瘦せ型の人が多いのはこの為です。
なんで肥満だとインスリンが効きにくくなるのか?
内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を比べると,内臓脂肪面積のほうがインスリンの反応性との相関が強いと言われています。1)
女性ホルモンは皮下脂肪を蓄える働きがありますが、内蔵脂肪には大きく作用しません。
しかし、閉経後の女性では女性ホルモンの分泌も減り、生活習慣次第でダイレクトに内臓脂肪を溜めやすくなります。
その為、加齢が進めば糖尿病の男女比はさほど違いはありません。
「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%であり、男女別にみると男性 12.2%、女性12.1%であるとされています。2)

男性でも女性でも、同じぐらい糖尿病のリスクがあります。
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日本人はインスリン分泌能が低い
糖尿病の原因の1つは食生活の欧米化です。
食の欧米化に伴い生活習慣病が激増してきたのには理由があります。
日本人やアジア人は欧米人と比べて糖尿病になりやすいと言われています。3)
欧米人はBMIが 30 などのわかりやすい肥満で初めて糖尿病が増加します。
しかし、日本人やアジア人はBMI25 程度の小太りでも糖尿病になり易いとされています。
これは、日本人やアジア人のインスリン分泌が欧米人に比べてインスリンの分泌能が低いからです。
欧米人に比べて約50%しかインスリン分泌能がなく、しかも分泌の低下も早いともされています。
逆に、2~3 kgの体重減少でも糖尿病発症は著明に抑制されます。
それほど体質的に脂肪の影響を受けてしまうのです。
元々の小さな脂肪細胞はインスリンが良く効く物質を分泌しています。
しかし、肥満により脂肪細胞が大きくなると、その物質の分泌量が少なくなってしまうのです。
これにより、脂肪が付けばつくほどインスリンの効き目が悪くなってしまうのです。
何で血糖値が高いとダメなのか?
という疑問が出てくると思います。
糖というものは、多すぎると良くない事が起きます。
血中の糖が多すぎると、血管が傷ついたり脆くなったりしてしまうのです。
糖が血中で反応した後の物質というのは様々な良くないを引き起こします。
直接血管を傷つけたり、活性酸素や炎症性の物質を誘発したり様々です。
身体のなかにはこの活性酸素を除去する物質が備わっています。
なので、身体は活性酸素による攻撃に耐えられているのです。
この抗酸化物質はたんぱく質ですが、糖と反応すると変質してしまいます。
これはメイラード反応と呼ばれるものです。
血糖値が多いと、これらの抗酸化物質の変性、劣化が進み、活性酸素の除去量が少なくなることで血管障害が起きやすくなってしまうのです。
血管は一酸化炭素(NO)を出して、血管を拡げてくれますが、このNOも活性酸素を除去してくれる働きを持っています。
しかし、活性酸素除去にNOが割かれてしまうと、血管を拡張する力が弱くなり、血圧上昇などにより傷が付きやすくなってしまいます。
以前にも紹介しましたが、血管が傷つけばそこの部位にはLDLコレステロールやマクロファージが沈着し、アテローム性動脈硬化症などにも繋がります
長期間の高血糖状態が続くと、動脈硬化などの血管障害に繋がってしまいます。
しかも、糖分が上がれば水分量も増すので血圧も上がります。
3大合併症
糖尿病の3大症状は網膜症、腎症、末梢神経障害です。
網膜症
網膜は目を覆う組織で、色や光を感じる神経細胞もあります。
網膜を走っている血管は非常に細いので、先ほどの血管障害には影響を受けやすいのです。
当然、高血糖状態が続いて網膜に障害が起きると、視野や視覚に影響が出てしまいます。
腎症
しかし、日本人やアジア人はBMI25 程度の小太りでも糖尿病になり易いとされています。溜まり過ぎた物質は、やがて腎臓の血管も非常に細かいです。
網膜症と同様に血管障害が起きれば、老廃物のろ過が上手く出来なくなるどころか、水分やミネラル分、血圧の調整もままならなくなるなど、非常に甚大な影響を及ぼしてしまいます。
ちなみに、透析の原因となるのはこの糖尿病性腎症がトップとなっています。(全体の4割以上)
末梢神経障害
血管も神経も身体中をめぐっています。
そして、末端になるほど細い血管や神経が集まります。
糖は神経細胞に取り込まれます。
過剰になってしまうと、今まで細胞間を行き来出来ていた糖は変化して、細胞の外に出られなくなってしまいます。
溜まり過ぎた物質は、やがて神経細胞の機能不全を引き起こしてしまいます。
糖が溜まり過ぎた結果、神経細胞が壊死を起こしてしまうが為に起こる症状です。
糖尿病の人で足が腐っていまい、切断を余儀なくされる話は聞いたことはありませんか?
経験的に、足指の巻き爪からこうした症状が進む事は多いです。
ですので、医師は糖尿病の患者さんの怪我や巻き爪にはかなり敏感になります。
糖尿病の患者さんへのフットケアが大事と言われている所以はここにあります。
どれか1つでもあったら既に・・・
先ほど糖尿病の3大症状を紹介しました。
網膜症、腎症、末梢神経障害の3つです。
実はこの症状の1つでも症状が出始めていたら危険信号です。
何故なら身体の中の糖分というものは満遍なく循環しています。
つまり、一部で症状が出ているのに他は出ていないという事は基本的に考えにくいのです。

どれか1つでも症状が出ている場合は、他の症状においても同時進行していると考えた方が良いでしょう。
膵臓 インスリンを分泌できる臓器
ここまで紹介したように、身体の中での糖というものは非常に重要な役割を果たします。
エネルギーとして糖は必要になりますが、その制御を誤ると毒にもなります。
糖を制御するインスリンは膵臓で作られています。
膵臓はインスリンだけではなく、血糖値を上げるグルカゴンと呼ばれるホルモンも作り出しています。
その他、消化酵素を作り出したり、色々忙しい臓器です。
もし膵臓が働かなくなってしまったら、生命活動に大きく影響します。
膵臓がんの予後が悪い理由はこういったところにあります。
治療の原則は生活習慣の是正
2型糖尿病の治療や予防は生活習慣の是正が基盤になります。
薬を使うかは疾患リスクにもよりますが、何よりも食生活の改善と運動習慣の是正です。
・太ってるなら痩せる
・脂肪を蓄えさせない食事内容にする
・運動は週3日以上、30分間の有酸素運動。
・よく寝ること
※お持ちの疾患によりやり方はかなり異なってくるので、主治医と相談しながら行うようにしてください。
前述したように、日本人であれば体重を減らすだけで糖尿病予防に対してはかなり有効です。
最後に
いかがでしたでしょうか?
糖尿病って怖いですね。
糖尿病になると色々な疾患の原因になることは多いので、是非予防するようにしましょう。
ではでは。
参考文献
1)「内臓脂肪だけでなく皮下脂肪もインスリン抵抗性に関与する」(2009年)
今日の治療薬
2)平成28年「国民健康・栄養調査」(厚生労働省)
3)「肥満症:診断と治療の進歩」