【咳】鎮咳薬(咳止め)の使い分け 麻薬性と非麻薬性

薬局業務
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本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。

ここでは鎮咳薬(咳止め)の使い分けをまとめています。

私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。

 

先にまとめ:大まかな使い分け

  • 咳止めは無理には使用せず、咳の原因の除外を優先させる
  • 咳で患者のQOLが低下する場合に、咳止めの使用を検討する
  • 咳止めに気管支喘息の適応はない
  • コデインの投与量の約5~15%はモルヒネに変換される
  • コデインの咳止め効果はモルヒネの約1/8~1/9程度
  • アスベリンには咳止め作用の他、去痰作用も併せ持つ
  • メジコンの鎮咳作用は、コデインの半分程
  • 麻薬性は非麻薬性と比べて鎮咳作用が強い分、副作用も強め
  • コデイン類は濃度1%以下では『非麻薬』、上回れば『麻薬』となる
  • コデイン類は、12歳未満の小児へは使用できない
  • アスベリンは薬物相互作用が少ない
  • メジコンはセロトニン濃度を上昇させてしまう為、MAO阻害剤とは禁忌。
  • メジコンはセロトニン作用薬やCYP2D6を阻害する薬剤(テルビナフィン等)との併用には注意
  • 妊婦・授乳婦にはアスベリンやメジコンが使いやすい
  • 腎機能低下例にはアストミンやレスプレンが使いやすい

咳は無理に止めない

咳嗽(がいそう)は生態防御反応の一種です。

身体の中に入った異物を外に出すために必要な機能となっています。

むかたけ
むかたけ

食べ物が変なとこに入ったときに咳き込まなかったら大変ですしね。

 

その為、一概に咳が出ているからといって全面的に咳を止めようとすることはあまり推奨されていません。

まずは咳が出る原因を探り、対処することが重要となります。

 

しかし、咳が患者のQOLに関わってくる場合には咳止めの使用が必要不可欠になってきます。

 

麻薬性と非麻薬性

咳は、気道壁表層の咳受容体の刺激が迷走神経を介して延髄咳中枢に伝達されて発生します。

日本で使用されている咳止めは、『麻薬性』と『非麻薬性』に大別されます。

 

一般名 依存性 呼吸抑制 気管支
弛緩
去痰 喘息適応
麻薬性 コデイン × × ×
非麻薬性 デキストロメトルファン × × × ×
ジメモルファン × × × × ×
チペピジン × × × ×
クロペラスチン × × × ×

 

良く使われる鎮咳薬

  • 麻薬性:コデイン(コデインリン酸塩)
  • 非麻薬性:チペピジン(アスベリン)、デキストロメトルファン(メジコン)

 

麻薬性

麻薬性の咳止めの代表格はコデインです。

コデインリン酸塩として知られています。

 

コデインが麻薬性と呼ばれているのは、コデインがモルヒネの誘導体だからです。

 

別名でメチルモルヒネと呼ばれていて、投与量の約5~15%が肝臓のCYP2D6でモルヒネに代謝されます。

この少量のモルヒネが、延髄の咳中枢に作用して、咳止めとしての効果が現れます。

 

モルヒネだけではなく、コデイン自体もモルヒネ程ではありませんが咳止め作用があります。

コデインの咳止め効果はモルヒネの約1/8~1/9程度と考えられています。

呼吸抑制の作用があるため、気管支喘息発作中や、慢性肺疾患に続発する心不全には禁忌となっています。

 

非麻薬性

非麻薬性では、チペピジンデキストロメトルファンが良く使用されています。

チペピジンもデキストロメトルファンも、延髄の咳中枢を抑制して咳止め効果を発揮します。

 

チペピジンは、気管支腺分泌を亢進させて、気道粘膜腺毛上皮運動を亢進させることでの去痰作用も併せ持ちます。

なので、チペピジンを使用した際には痰が出やすくなるということは事前に説明した方が良いでしょう。

 

デキストロメトルファンは、オピオイド作動薬のレボルファノールのメチル化体のd異性体ですが、鎮痛作用はありません。

鎮咳作用はコデインの半分程と考えられています。

 

コデインは濃度によっては麻薬に該当

コデインはいくつかの剤形や規格が存在します。

その中でも注意が必要となるのは、コデインの濃度についてです。

 

日本では法律(麻薬及び向精神薬取締法)で、『千分中十分以下のコデイン、ジヒドロコデイン又はこれらの塩類を含有する物であって、これら以外の麻薬の該当する物を含有しないもの』は家庭麻薬と定義されています。

簡単に言えば、濃度が1%以下のコデイン(又はジヒドロコデイン)は家庭麻薬に該当し、『麻薬』ではなくなるということです。

 

その為、コデインリン酸塩は濃度によっては麻薬に該当するものが出てくる為、一般薬とは管理が別となります。

当然、処方せん記載等も一般薬とは異なりますので、注意が必要です。

 

成分量が同じでも区分は違うことも…

中には成分量が同じでも法的に『麻薬』と『家庭麻薬(非麻薬)』となるケースもある為、注意しましょう。

  • コデインリン酸塩錠20mg:濃度が2%となる為、『麻薬』扱い
  • コデインリン酸塩散1%:濃度が1%以下の為、『家庭麻薬』扱い

 

コデインリン酸塩錠20mgを3錠(成分量60mg)も、コデインリン酸塩散1%を6.0g(成分量60mg)を投与する場合、両剤の成分量は同じです。

しかし、成分量が同じであっても法的に区分が分けられている為、一方は『麻薬』として、もう一方は『非麻薬』としての処方となりますので、注意が必要となります。

 

むかたけ
むかたけ

同成分なのに『麻薬』としての管理や処理が面倒となる場合は、疑義紹介をして『家庭麻薬』のコデインリン酸塩散1%に薬剤変更してもらった方が良いでしょう。

 

 

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副作用

麻薬性は非麻薬性よりも鎮咳作用が強い分、副作用も強くなりがちです。

麻薬性の副作用の代表は、便秘や呼吸抑制、悪心、嘔吐などです。

むかたけ
むかたけ

どれもオピオイド鎮痛薬による副作用と似ていますね。

 

その為、現場では麻薬性よりも非麻薬性の咳止めが選択されるケースが多いです。

 

コデインの小児への使用は禁忌

FDAでは、2017年に小児の呼吸抑制の危険性から12歳未満へのコデインリン酸塩類を含む医薬品の使用を禁忌としました。

これに続いて日本でも、2018年末までにコデインリン酸塩を含む医薬品は12歳未満の小児への投与は禁忌となりました。

 

相互作用

デキストロメトルファンには注意

非麻薬のチペピジンは薬物相互作用が少ないとされていて、インタビューフォームには記載はありません。

 

一方、非麻薬性でもデキストロメトルファンには注意が必要です。

デキストロメトルファンは中枢のセロトニン濃度を上昇させる為、セロトニン症候群のリスクがあります。

 

MAO阻害剤とは併用禁忌になっていて、セロトニン作用薬とは併用注意になっています。

むかたけ
むかたけ

SSRIなどとの併用には注意したいですね。

 

CYP2D6で代謝されるので、CYP2D6を阻害する薬(キニジン、アミオダロン、テルビナフィン等)との併用は、血中濃度の上昇に注意が必要となります。

むかたけ
むかたけ

キニジン、アミオダロン、テルビナフィンは外来でも良く使われる薬ですので、併用薬のチェックはしておきたいですね。

 

妊婦・授乳婦

コデインは妊婦に使用しても危険度が上昇することは考えにくいとされていますが、長期間の使用は控えるように言われています。

コデインは胎盤を通過し、胎児に移行することが確認されています。

 

胎児の呼吸抑制のリスクがありますので、内服時には注意する必要があります。

分娩前のコデインの使用で出産後新生児の離脱症状を起こした例があるので、分娩前には使用しないようにしましょう。

 

新生児の離脱症状について

新生児の離脱症状とは、新生児薬物離脱症候群のことです。

妊婦が長期間使用していて胎児に暴露していた薬が分娩で途切れた結果、離脱症状として興奮時の振戦や不安興奮状態の神経症状が現れることを指します。

 

非麻薬性のチペピジンとデキストロメトルファンは服用しても危険性は高くないとされています。

特にデキストロメトルファンは臨床使用歴が高く、安全性が高いとされています。

 

授乳婦に対しては、コデインは乳児にモルヒネが移行して中毒を起こすことが報告されています。

母親に眠気などの症状が生じた場合や、乳児の哺乳が悪い場合は、服用を中止することとされています。

チペピジンやデキストロメトルファンは乳児に適応をもち、乳汁中へ移行しても問題にならないとされています。

むかたけ
むかたけ

妊婦・授乳婦に対しては非麻薬が安全ということですね。

 

腎機能低下例

腎機能のクレアチニンクリアランス(CCr)に応じて減量が必要となる薬とそうでない薬が分かれます。

 

麻薬性

  • コデインリン酸塩:CCr約55未満で25%減量、30未満で50%減量
  • ジヒドロコデインリン酸塩:CCr約55未満で25%減量、15未満で50%減量

 

非麻薬性

  • メジコン:CCr約55未満で25%減量、15未満で50%減量
  • アスベリン:データがほとんどなく不明
  • ノスカピン:データがほとんどなく不明
  • フラベリック:データがほとんどなく不明
  • アストミン:腎機能正常者と同じように使用可能
  • レスプレン:腎機能正常者と同じように使用可能

 

まとめ:大まかな使い分け

  • 咳止めは無理には使用せず、咳の原因の除外を優先させる
  • 咳で患者のQOLが低下する場合に、咳止めの使用を検討する
  • 咳止めに気管支喘息の適応はない
  • コデインの投与量の約5~15%はモルヒネに変換される
  • コデインの咳止め効果はモルヒネの約1/8~1/9程度
  • アスベリンには咳止め作用の他、去痰作用も併せ持つ
  • メジコンの鎮咳作用は、コデインの半分程
  • 麻薬性は非麻薬性と比べて鎮咳作用が強い分、副作用も強め
  • コデイン類は濃度1%以下では『非麻薬』、上回れば『麻薬』となる
  • コデイン類は、12歳未満の小児へは使用できない
  • アスベリンは薬物相互作用が少ない
  • メジコンはセロトニン濃度を上昇させてしまう為、MAO阻害剤とは禁忌。
  • メジコンはセロトニン作用薬やCYP2D6を阻害する薬剤(テルビナフィン等)との併用には注意
  • 妊婦・授乳婦にはアスベリンやメジコンが使いやすい
  • 腎機能低下例にはアストミンやレスプレンが使いやすい

最後に

大まかな使い分けは以上となります。

医療業務の参考になれば幸いです。

ではでは。

参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)

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