【抗血栓】抗血小板薬の使い分け バイアスピリンやプラビックスなどのP2Y12拮抗薬

薬局業務
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本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。

ここでは抗血小板薬のバイアスピリンなどやプラビックスなどのP2Y12拮抗薬の使い分けをまとめています。

私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。

先にまとめ:大まかな使い分け

  • 発症早期の軽症脳梗塞には抗血小板薬2剤併用が推奨(バイアスピリンとP2Y12拮抗など)
  • P2Y12拮抗での虚血性心疾患にはプラスグレル→クロピドグレル→チカグレロルの順が推奨
  • P2Y12拮抗の中で、閉塞性動脈硬化症、非心原性脳梗塞の適応は、チクロピジンとクロピドグレルのみ
  • 脳卒中再発予防にはシロスタゾール、クロピドグレル、低用量アスピリンが推奨
  • 作用発現の速さはクロピドグレル(遅い)<プラスグレル(中)<チカグレロル(速い)
  • チカグレロルは可逆的阻害なので休薬期間が短い
  • P2Y12拮抗薬は全て腎機能低下時の調節は必要なし
  • CYP関係での併用禁忌ありはチカグレロルのみ
薬剤名 休薬期間
抗血小板薬 アスピリン(バイアスピリン) 7日
シロスタゾール(プレタール) 3日
ベラプロスト(ドルナー) 1日
リマプロスト(プロレナール) 1日
サルポグレラート(アンプラーグ) 1~2日
ジピリダモール(ペルサンチン) 1~2日
抗血小板薬
(P2Y12拮抗)
チクロピジン(パナルジン) 10~14日前
クロピドグレル(プラビックス) 14日間
プラスグレル(エフィエント) 14日間
チカグレロル(ブリリンタ) 5日間以上

抗血小板薬と抗凝固薬の使い分け

動脈と静脈で使い分ける

動脈は血流が速いので、主に抗血小板薬(バイアスピリンなど)が使われます。

血流が速い環境では、血小板が作用しやすい特徴があります。

 

動脈→血流が速い→血小板作用→抗血小板薬

 

となります。

 

血管の内外に異物や傷があると止血作用が働きます。

動脈は血流が速い為、内因子のような多段階な作用は不向きです。

その為、動脈の止血作用は速効性の高い血小板が止血として用いられます。

 

対して、静脈は流れが緩やかなので、止血には内因子が大きく関与します。

 

むかたけ
むかたけ

血流が滞るとだま(血栓)になるイメージです。

 

なので、心房細動などで血流が滞ると血栓リスクが上がるので、こうしたケースでは抗血小板ではなく抗凝固薬(ワーファリンなど)を使います。

 

内因子による凝固作用は、いくつもの段階を踏む為に流れが緩やかな静脈で起きやすいイメージです。

 

静脈→血流が緩やか→内因子→抗凝固薬

 

こんなイメージです。

 

このように使われるお薬が抗血小板薬と抗凝固薬に大きく分けることができます。

 

よく動脈硬化症などでは使われている言葉が『動脈』なので、この辺に関しては自然とこれらの疾患に対して使われる薬が『抗血小板薬』ということは想像がつくかと思います。

 

抗血小板薬:閉塞性動脈硬化症、心筋梗塞、非心原性脳梗塞など、動脈硬化が原因となる血栓症に対して使われます。

抗凝固薬:心原性脳梗塞、肺血栓塞栓症や下肢静脈血栓症、非弁膜症性心房細動で使用されます。

 

脳梗塞にはどっちを使えば良いか?

抗血小板薬も抗凝固薬も脳梗塞に使えます。

ただ、何が原因の脳梗塞かでどちらを使うかが決まります。

それは心臓が原因(心原性)かどうかによります。

 

心原性脳梗塞は、心房細動などにより血流が一時的に滞る事で、内因子によって血栓が出来ます。

その血栓が脳梗塞の原因となるものです。

なので、心原性脳梗塞には抗凝固薬を使います。

 

対して非心原性はアテローム性脳梗塞やラクナ梗塞などの心原性以外のものを指します。

こちらに対しては抗血小板を使います。

 

  • 心原性脳梗塞:抗凝固薬
  • 非心原性脳梗塞:抗血小板薬

 

抗血小板薬の使い分け

バイアスピリンなど

抗血小板薬は、血小板のP2Y12受容体に作用する薬かそうでないかで大きく分けることが出来ます。

P2Y12受容体以外のお薬は、低用量アスピリンのようにCOXに作用したり、シロスタゾールのようにPDEⅢ阻害、リマプロストのようにPG系阻害など、薬剤により異なる作用機序があります。

これらのお薬は、多くの動脈系疾患が原因の血栓を予防します。

P2Y12拮抗以外

  • 低用量アスピリン(バイアスピリン)
  • シロスタゾール(プレタール)
  • ベラプロスト(ドルナー)
  • リマプロスト(プロレナール)
  • サルポグレラート(アンプラーグ)
  • ジピリダモール(ペルサンチン)

 

薬剤名 休薬期間
アスピリン(バイアスピリン) 7日
シロスタゾール(プレタール) 3日
ベラプロスト(ドルナー) 1日
リマプロスト(プロレナール) 1日
サルポグレラート(アンプラーグ) 1~2日
ジピリダモール(ペルサンチン) 1~2日

P2Y12拮抗の使い分け

血小板受容体のP2Y12に作用すると、抗血小板作用を有します。

チクロピジンは2002年7月に無顆粒球症や肝障害で緊急安全性情報が出された関係で、新たな使用は減ってきている印象です。

チクロピジンの副作用を軽減したクロピドグレル(プラビックス)、プラスグレル(エフィエント)、チカグレロル(ブリリンタ)があり、現在はこちらが主流となっています。

 

P2Y12拮抗薬

  • チクロピジン(パナルジン)
  • クロピドグレル(プラビックス)
  • プラスグレル(エフィエント)
  • チカグレロル(ブリリンタ)

 

閉塞性動脈硬化症

P2Y12拮抗の中で、閉塞性動脈硬化症への適応があるのはチクロピジンとクロピドグレルだけです。

日本循環器学会の『 末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン2015年版改訂版』では、症候性下肢閉塞性動脈硬化症患者に対しての心血管イベント予防のために低用量アスピリンと並んでクロピドグレルを投与することが推奨されていますが、根拠は低くエビデンスは低いです。

 

虚血性心疾患

冠動脈ステント留置後のステント内血栓症を防ぐために低用量アスピリンを併用することが推奨されています。

今までP2Y12拮抗薬を服用していない患者ではプラスグレルが推奨されています。

プラスグレルの服用が困難な場合にはクロピドグレルが推奨されています。

 

チカグレロルはクロピドグレルと比較して統計的に優れた有効性と臨床的に許容される安全性が示されている(PLATO試験)が、アジア共同第三相試験における全集団及び日本人部分集団で認められた有効性及び安全性の結果は、クロピドグレルに比較して劣る傾向でした。

 

そのため、チカグレロルはプラスグレル及びクロピドグレルの服用が困難な場合のみ投与することが推奨されています。

むかたけ
むかたけ

虚血性心疾患にはプラスグレル→クロピドグレル→チカグレロルの順が推奨ですね。

 

低用量アスピリンとの併用について

抗血小板2剤併用の期間については出血リスクや血栓リスクを考慮して決定されます。

落ち着いたら単剤に減薬されますが、低用量アスピリンとどちらを残すかという問題に対しては、禁忌がない限り無期限に低用量アスピリンを経口投与することが推奨されています。

PCIではない場合は、アメリカのガイドラインでは、クロピドグレルよりもチカグレロルが推奨されています。

 

非心原性脳梗塞においては、チクロピジンとクロピドグレルのみが適用となっています。

日本脳卒中学会の『脳卒中ガイドライン2019』では、発症早期の軽症脳梗塞もしくは一過性脳虚血発作の亜急性期までの治療法として、抗血小板薬2剤併用(P2Y12拮抗薬とそれ以外)が推奨されています。

 

また再発予防に対し最も有効な抗血小板療法としてはシロスタゾール、クロピドグレル、低用量アスピリンが最も推奨されていて(グレード A) 、チクロピジンはその次(グレードB)に推奨されています。

 

脳卒中再発予防

  • グレードA:シロスタゾール、クロピドグレル、低用量アスピリン
  • グレードB:チクロピジン

 

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代謝

P2Y12拮抗薬の中でクロピドグレルは代謝経路が複雑で活性体になるまでに幾つかの段階を経る必要があるため、血小板凝集を抑制効果発現までに時間がかかる印象です。

一方、プラスグレルは第3世代のP2Y12拮抗薬でクロピドグレルに比べ代謝経路が単純で作用が迅速に発現します。

チカグレロルは作用発現に代謝活性化を必要としないため、さらなる迅速な血小板凝集作用を期待できます。

 

むかたけ
むかたけ

作用発現の速さはクロピドグレル(遅い)<プラスグレル(中)<チカグレロル(速い)ですね。

 

またクロピドグレルとプラスグレルの抗血小板作用は不可逆であるのに対し、チカグレロルは可逆的なため術前の休養期間が短くて済むというメリットがあります。

他のP2Y12拮抗薬の休薬期間が14日に対し、チカグレロルは5日以上と半分の休薬期間でOKです。

  • 不可逆的:クロピドグレル、プラスグレル
  • 可逆的:チカグレロル
薬剤名 休薬期間
チクロピジン(パナルジン) 10~14日前
クロピドグレル(プラビックス) 14日間
プラスグレル(エフィエント) 14日間
チカグレロル(ブリリンタ) 5日間以上

 

遺伝子多型の影響

クロピドグレルはCYP2C19で代謝されて始めて活性代謝物になります

CYP2C19は遺伝子多型による影響を受けやすく、 代謝活性欠損者では活性代謝物に変換されず血小板凝集を抑制作用が期待できません。

 

日本人は欧米人に比べ代謝活性欠損者の割合が高いとされており18~23%であることが知られています。

一方、プラスグレルはCYP2C19の遺伝子多型の影響が少なく、チカグレロルはCYP2C19の遺伝子多型の影響はありません。

 

P2Y12拮抗薬は全て腎機能低下時の調節は必要ありません

 

相互作用

P2Y12拮抗薬には消化管出血のリスクがあるため、PPIなどの攻撃因子抑制薬と併用されることが多いです

PPIであるオメプラゾールはCYP2C19を阻害することが知られています

そのため、併用するとクロピドグレルの活性代謝物の血中濃度が低下して血小板作用が減弱するおそれがあるため併用注意となっています。

 

クロピドグレルとセレキシパグは併用禁忌となっていましたが2020年6月に併用注意魚と添付文書が改定されました

 

チカグレロルは強いCYP3A阻害薬や誘導薬とは併用禁忌になっています

CYP関係での併用禁忌ありはチカグレロルのみです

他のP2Y12拮抗薬はCYP関係による併用禁忌はありません。

 

まとめ:大まかな使い分け

  • 発症早期の軽症脳梗塞には抗血小板薬2剤併用が推奨(バイアスピリンとP2Y12拮抗など)
  • P2Y12拮抗での虚血性心疾患にはプラスグレル→クロピドグレル→チカグレロルの順が推奨
  • P2Y12拮抗の中で、閉塞性動脈硬化症、非心原性脳梗塞の適応は、チクロピジンとクロピドグレルのみ
  • 脳卒中再発予防にはシロスタゾール、クロピドグレル、低用量アスピリンが推奨
  • 作用発現の速さはクロピドグレル(遅い)<プラスグレル(中)<チカグレロル(速い)
  • チカグレロルは可逆的阻害なので休薬期間が短い
  • P2Y12拮抗薬は全て腎機能低下時の調節は必要なし
  • CYP関係での併用禁忌ありはチカグレロルのみ
薬剤名 休薬期間
抗血小板薬 アスピリン(バイアスピリン) 7日
シロスタゾール(プレタール) 3日
ベラプロスト(ドルナー) 1日
リマプロスト(プロレナール) 1日
サルポグレラート(アンプラーグ) 1~2日
ジピリダモール(ペルサンチン) 1~2日
抗血小板薬
(P2Y12拮抗)
チクロピジン(パナルジン) 10~14日前
クロピドグレル(プラビックス) 14日間
プラスグレル(エフィエント) 14日間
チカグレロル(ブリリンタ) 5日間以上

最後に

大まかな使い分けは以上となります。

医療業務の参考になれば幸いです。

ではでは。

参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)

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