本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは気管支喘息、COPD、ACOの治療薬の使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
- 気管支喘息・COPD・ACOで大別
- 気管支喘息の治療目標は、限りなく正常に近い呼吸機能を経て、健常人と変わらない生活を送ること
- 気管支喘息の治療の中心は吸入ステロイド
- COPDの治療目標は症状・QOLの改善、増悪の予防であり、進行を遅らせること
- COPDではロイコトリエン拮抗薬は使わない
- COPDでは抗コリン薬を第一選択にすることが多い
- COPDにおいては、吸入ステロイドは使いすぎると肺炎リスク上昇の報告あり
- β₂刺激薬:作用持続はホルモテロール・サルメテロール<ビランテロール・インダカテロール
- ステロイド受容体の親和性は、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)が最も強い
- 喘息死の半数は治療(吸入)が成功していないことが要因の為、アドヒアランスが重要
- アドエア、レルベア、アテキュラは甘味あり。シムビコートは無味。
- ディスカスやエリプタは、pMDIと比較して吸入力不足による口腔内沈着リスクが高め
- 気管支喘息もCOPDも効果不十分例にはトリプルセラピーが推奨
- エアロスフィアは他剤と比較して肺の中枢から末梢の深部まで到達可能
- エアロスフィアはエタノールを含んでいない為、コールドフレオン現象のリスク低
- 気管支喘息やCOPDの治療薬の大半は腎機能正常者と同じように使用可能
薬剤選択に混乱しやすい
気管支喘息やCOPD治療薬は、複雑な印象があります。
配合剤も多いので適応や薬剤選択などで混乱することも多いです。
呼吸器系の多くは、気管支喘息かCOPD、もしくはこの合併症(ACO)で大別出来ます。
なので、各疾患の特性が分かれば、薬剤選択もわかるようになります。
気管支喘息の治療
気管支喘息は主に気道の炎症により引き起こされます。
その為、炎症を抑えるお薬が優先的に使用されます。
まずは炎症を抑える事を優先し、吸入ステロイドやロイコトリエン拮抗薬が選ばれます。
次いで、炎症が原因で気管支が収縮しやすくなってしまっているので、β刺激薬や抗コリンが使用されていきます。
ちなみに、キプレスなどのロイコトリエン拮抗薬はCOPDの適応はなく、呼吸器系では気管支喘息のみが適応となっています。
治療目標は、限りなく正常に近い呼吸機能を経て、健常人と変わらない生活を送ることです。
薬剤の選択
重症度によって薬剤を追加していきますが、軽度であれば、吸入ステロイド・テオフィリンやロイコトリエン拮抗薬から開始します。
症状が重くなるにつれて、β刺激や抗コリンを導入していきます。
なので、治療の中心となるのが吸入ステロイド薬ということになります。
COPDの治療
COPDはタバコなどの有害物質に肺が長期間暴露されてしまうことで生じる、慢性的な炎症疾患です。
気管支喘息との違いは、進行性である点です。
気管支喘息の治療目標は 限りなく正常に近い呼吸機能を経て、健常人と変わらない生活を送ることですが、COPDの場合は違います。
目標は、症状・QOLの改善、増悪の予防であり、進行を遅らせることです。
COPDの原因はタバコなどの有害物質によるものなので、いくら炎症を抑えても原因物質をやめなければ大きく変わりはありません。
気道や肺胞に障害が起きているために、まずは気管支を拡げて呼吸を確保するところから始めます。
その為、COPDの場合は炎症性の疾患ではありますが、多量の吸入ステロイドの使用は推奨されていません。
配合剤などでもステロイド含有量が多い規格の場合は、気管支喘息のみが適応になっていて、COPDは適応外ということもあります。
逆に、ステロイドが入っていないβ刺激/抗コリンの配合剤(スピオルトやアノーロなど)では、気管支喘息の適応はなく、COPDのみの適応となっています。
薬剤の選択
気管支喘息と同様に、重症度に応じて薬剤を選択していきます。
気管支喘息との大きな違いは、軽度ではβ刺激や抗コリンを選択し、重症度が上がるにつれてテオフィリンや吸入ステロイドを選択することです。
増悪抑制効果はβ刺激よりも抗コリンの方が優れているとされています。
その為、抗コリンを第一選択とすることが多いです。
前述しましたが、COPDにロイコトリエン拮抗薬を使わないことは気管支喘息との治療で大きな違いとなっています。
合併症
気管支喘息とCOPDの合併症(asthma and COPD overlap:ACO)です。
ACOでは、気管支喘息とCOPDで用いられている薬剤をフルに利用します。
新規では中等度の吸入ステロイドとβ刺激又は抗コリン組み合わせで開始します。
重症度に応じて、吸入ステロイド+β刺激+抗コリンのトリプルセラピーを行うことが推奨されています。
主な使用薬剤
略語は簡単な解釈でOK
吸入ステロイドやβなどは略語表記される事が多いです。
- 吸入ステロイド:ICS
- β刺激薬:BA
- 抗コリン薬:MA
主にこれらが略語として表記されます。
文献などでも略語がわからずに投げ出す人もいますが、簡単で構いません。
- ICSであれば、IC『S』の部分がステロイドの『S』。
- LABAでは『L』A『B』Aの『L』はLong(長い)、『B』はβ受容体。
なので、長いβで長時間作用型β刺激 - 逆にSABAは『S』がShort(短い)なので、短時間作用型β刺激。
- MAの『M』はムスカリン受容体の『M』です。
なので、LAMAは長時間作用型ムスカリン受容体拮抗。
こんな感じでアルファベットだけ見て判別しても構いません。
ICS(吸入ステロイド)の使い分け
数々のサイトカインを抑制することで高い抗炎症効果を発揮します。
それだけではなく、β₂受容体を増加させる作用もあるため、β刺激薬と併用することで更に効果が高まる特徴があります。
吸入では全身性の副作用は少ないですが、口腔カンジダや嗄声などの副作用には注意です。
COPDにおいては、使いすぎると肺炎リスクの上昇が報告されています。
各薬剤
β刺激薬
- LABA:長時間作用型β刺激
- SABA:短時間作用型β刺激
β₂受容体を刺激することで、細胞内のcAMPを増やして、気管支平滑筋を弛緩させる作用があります。
気道の繊毛運動を促し、気道分泌液を排泄させる作用も併せ持ちます。
その他にもβ₂刺激はステロイドの核内移行を促進する働きもあるので、ICSの効果を高めることも期待出来ます。
気管支喘息やCOPDでは、LABAをベースに使い、SABAは発作時に限った使い方をするのが主流です。
ちなみに、LABAはSABAを改変し脂溶性を高めたものになります。
脂溶性を高めることで長時間滞留→長時間作用という形です。
作用持続時間は、
ホルモテロール・サルメテロール<ビランテロール・インダカテロール
となっています。
その為、
ホルモテロール・サルメテロール含有:1日2回
ビランテロール・インダカテロール:1日1回
という形で、用法にも違いがあります。
貼付剤などに比べて頻度は少ないですが、β1刺激による振戦や動悸、頻脈、低カリウムの副作用には注意が必要です。
抗ムスカリン(抗コリン)
- LABA:長時間作用型抗コリン薬
- SABA:短時間作用型抗コリン薬
気管支にあるM₃受容体を拮抗することで、気管支平滑筋を弛緩させます。
最も多い副作用は口渇です。
重篤な心疾患には慎重投与で、閉塞隅角緑内障や排尿障害を伴う前立腺肥大には禁忌となっています。
COPDでは高齢者が多い為、使用の際には既往歴の確認はした方が良いでしょう。
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ICS/LABAの使い分け
フルティフォーム | アドエア | シムビコート | レルベア | アテキュラ | |
ICS | フルチカゾンプロピオン酸エステル | フルチカゾンプロピオン酸エステル | ブデソニド | フルチカゾンフランカルボン酸エステル | モメタゾンフランカルボン酸エステル |
RAA※ | 1775 | 855 | 2989 | 2244 | |
LABA | ホルモテロール | サルメテロール | ホルモテロール | ビランテロール | インダカテロール |
効能・
効果 |
気管支喘息 | ①気管支喘息 ②COPD (125エアゾール、250ディスカスのみ) |
①気管支喘息 ②COPD |
①気管支喘息 ②COPD(100のみ) |
気管支喘息 |
1日の投与回数 | 2回 | 1回 | |||
粒子径 | 3.1~3.6μm | 2.7~3.5μm 4.4μm |
2.2~4μm 2.4μm |
フルチカゾン:4.0μm ビランテロール:2.7μm |
‐ |
デバイス | pMDI | pMDI ディスカス |
タービュヘイラー | エリプタ | フリーズヘラー |
※RAAはデキサメタゾンの親和性を100として換算しています。
各ICSのステロイド受容体との親和性(RRA)を比較すると、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)が最も強いです。
FFはレルベアに配合されています。
アドエアに配合しているサルメテロールは、SABAのサルブタモールに長い炭素鎖を付加したことで長時間化しています。
アドヒアランス重視
ICS/LABA配合剤の使い分けは、アドヒアランスが重視されるケースが多いです。
何故なら、喘息死の半数は治療(吸入)が成功していないからとも言われているからです。
COPDの患者では、気道が慢性的に閉塞しているので、薬剤の吸入力が低下しているケースが多かったり、高齢者でデバイスの操作方法がわからないなどが原因にあります。
その為、簡単に使用が出来るデバイスの選択は必須です。
フルティフォームなどは、加圧噴霧式定量吸入器(pMDI)製剤で、吸入力が低下した患者に対して向いています。
押すとガスがプシュっと出るタイプですね。
ちなみに、pMDI以外は全て自分の力で吸入する必要があるため、高齢者などではpMDIが向いていると言えます。
アドエア、レルベア、アテキュラは乳糖を含有するため、吸入後に甘味を感じますが、シムビコートは乳糖がごく僅かなので、ほとんど無味となっています。
ディスカスやエリプタは、pMDIと比較して吸入力不足による口腔内沈着リスクが高めです。
その為、吸入後のうがいは必須となります。
pMDIは粒子径が小さく、噴霧剤に代替フロンが含有されているので、口腔内沈着リスクは低めです。
しかし、吸入後のうがいは必要なので、しっかり説明しましょう。
吸入に適した粒子径
吸入に適した粒子径は0.8~3μmとされています。
0.8μmを下回る場合は呼気と共に排泄されてしまいます。
その為、ディスカスやエリプタの息止めは非常に重要になります。
pMDIでも、代替フロンや無水アルコールによって咽頭が刺激され、咳嗽を誘発することがあります。
この誘発は、コールドフレオン現象と呼ばれています。
pMDIを使っていて、咳等の訴えが多い場合は他のデバイスへの変更も検討します。
トリプルセラピー
- 気管支喘息で、ICS/LABAで治療していても、効果が不十分な場合、LAMAを追加。
- COPDで、LABA/LAMAで治療していても、効果が不十分な場合、ICSを追加。
このように、効果不十分な場合にはトリプルセラピーを検討します。
トリプルセラピーは、ICS+LABA+LAMAを加えた3剤療法になります。
少し前までは、2つのデバイスを使用しなければなりませんでしたが、最近では3剤配合のデバイスも発売されています。
テリルジー | ビレーズトリ | エナジア | |
ICS | フルチカゾンフランカルボン酸エステル | ブデソニド | モメタゾンフランカルボン酸エステル |
LABA | ビランテロール | ホルモテロール | インダカテロール |
LAMA | ウメクリジウム | グリコピロニウム | グリコピロニウム |
規格 | 100/200 | ‐ | 中用量/高用量 |
効能・効果 | ①気管支喘息 ②COPD(100のみ) |
COPD | 気管支喘息 |
1日の投与回数 | 1回 | 2回 | 1回 |
デバイス | エリプタ | pMDI | フリーズヘラー |
テリルジーは、世界で初めての3剤配合吸入薬で、承認時はCOPDのみ適応でしたが、2020年に気管支喘息の適応も取得し、使用しやすくなっています。
エアロスフィア
ビレーズトリはエアロスフィアと呼ばれる担体に薬剤を接着する新規の薬剤輸送システムです。
薬剤結晶と比較して多孔性粒子は比重が軽い事から、肺の中枢から末梢の深部まで到達可能であるとされています。
また担体がリン脂質で構成されているので、肺・気道表面との親和性が良好なのも特徴です。
細胞膜はリン脂質で構成されています。
臨床での報告はありませんが、エアロスフィアは代替フロンは含有していますが、エタノールは含有していないので、コールドフレオン現象のリスクが減少することが期待されています。
腎機能低下例
気管支喘息やCOPDの治療薬の大半は腎機能正常者と同じように使用可能です。
禁忌はありませんが、AUCの上昇が認められているので、クレアチニンクリアランス(CCr)によっては慎重投与になっているお薬もあります。
慎重投与薬剤
- シーブリ:CCr30未満
- スピリーバ:CCr50未満
- ウルティブロ:CCr30未満
- ビベスピ:CCr30未満
- スピオルト:CCr50未満
- ビレーズトリ:CCr30未満
上記は全て抗コリン薬が含有されているお薬です。
AUCの上昇も、抗コリン成分が上昇するので慎重投与となっていますので、ご注意下さい。
まとめ:大まかな使い分け
- 気管支喘息・COPD・ACOで大別
- 気管支喘息の治療目標は、限りなく正常に近い呼吸機能を経て、健常人と変わらない生活を送ること
- 気管支喘息の治療の中心は吸入ステロイド
- COPDの治療目標は症状・QOLの改善、増悪の予防であり、進行を遅らせること
- COPDではロイコトリエン拮抗薬は使わない
- COPDでは抗コリン薬を第一選択にすることが多い
- COPDにおいては、吸入ステロイドは使いすぎると肺炎リスク上昇の報告あり
- β₂刺激薬:作用持続はホルモテロール・サルメテロール<ビランテロール・インダカテロール
- ステロイド受容体の親和性は、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(FF)が最も強い
- 喘息死の半数は治療(吸入)が成功していないことが要因の為、アドヒアランスが重要
- アドエア、レルベア、アテキュラは甘味あり。シムビコートは無味。
- ディスカスやエリプタは、pMDIと比較して吸入力不足による口腔内沈着リスクが高め
- 気管支喘息もCOPDも効果不十分例にはトリプルセラピーが推奨
- エアロスフィアは他剤と比較して肺の中枢から末梢の深部まで到達可能
- エアロスフィアはエタノールを含んでいない為、コールドフレオン現象のリスク低
- 気管支喘息やCOPDの治療薬の大半は腎機能正常者と同じように使用可能
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)