本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは抗精神病薬の定型抗精神病薬、SDA,DSA、MARTA、DSSの使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
第一世代(定型抗精神病薬)
- 幻覚や妄想などの陽性症状を改善させるが、陰性症状に対する効果は薄い
- 至適用量はクロルプロマジン換算で300~600mg
- 多くがアドレナリン投与中やパーキンソン病には禁忌
セロトニンドパミン遮断薬(SDA)
- SDA:D₂<セロトニン
- SDAの効果に大きな差はない
- SDAはセロトニン受容体遮断作用が D₂遮断よりも強い為、プロラクチン上昇作用などの副作用が比較的少ない
- リスペリドンは他のSDAと比べてプロラクチン上昇を起こしやすい
- リスパダール内用液は茶葉由来(お茶やコーラなど)との服用で含量低下
- パリペリドンはリスペリドンの代謝物で、リスペリドンよりも副作用が少ない
- パリペリドンは朝食後服用の必要があり、糞中に製剤残渣が排泄される
- ペロスピロンやルラシドンはセロトニン受容体の親和性が強い
ドパミンセロトニン遮断薬(DSA)
- DSA:セロトニン<D₂
- DSAはD₂受容体に対する親和性が強いため、SDAより強く陽性症状をより改善させる
- ブロナンセリンは眠気や体重増加の副作用が少なめ
SDA・DSA
- ルラシドンやブロナンセリンはCYP3A4やグレープフルーツジュースには注意
- リスペリドン以外は空腹時服用で吸収が低下するので注意
MARTA
- MARTA間の中でも治療効果には大きな違いはない
- クロザピンは国内で唯一治療抵抗性統合失調症に対して適用を有する
- クロザピンは重大な副作用リスクがある為、CPMSに規定された基準全てを満たした場合にのみ使用ができる
- MARTAはD₂受容体への親和性が低いが、クロザピンは特にD₂受容体に対する親和性が低い
- D₂受容体親和性が低いので、錐体外路症状や高プロラクチン血症が起こりにくい
- オランザピンは抗コリンの副作用に注意が必要
- アセナピンは抗コリン作用が少なく、イレウスの既往を持つ患者にも使用しやすい
- オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者には禁忌
- アナセピンは舌下投与により口腔粘膜から吸収される
- アセナピンは口腔内の感覚鈍麻など舌下錠特有の副作用がある。
ドパミン部分作動薬(DSS)
- ドパミン作動性神経が過剰に活動している場合:拮抗薬として作用
- ドパミン作動性神経が低下している場合:刺激薬として作用
- D₂刺激作用:レキサルティ<エビリファイ
- エビリファイ内用液は混ぜると含量低下するものが多いので注意
- アカシジア例にはレキサルティの使用が期待
- 糖尿病患者への使用には注意が必要
- レキサルティの適応は統合失調症のみ
第一世代と第二世代
抗精神病薬は大きく第一世代と第二世代に分類されます。
第一世代は定型抗精神病薬、第二世代は非定型抗精神病薬と呼ばれています。
第一世代
- クロルプロマジン(コントミン等)
- レボメプロマジン(ヒルナミン等)
- ハロペリドール(セレネース)
- 他多数あり
第1世代抗精神病薬の薬理作用は、主に中脳辺縁系のドパミンD₂受容体を強力に遮断することです。
幻覚や妄想などの陽性症状を改善させます。
しかし、陰性症状や認知機能障害にはあまり効果がなく、錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用を引き起こす可能性があります。
抗精神病薬はD₂受容体を遮断することで効果が認められています。
その至適用量はクロルプロマジン換算でおよそ300~600㎎と推測され、一般に1000㎎を超える量は大量投与と考えられています
クロルプロマジン換算値 | |
クロルプロマジン | 100 |
ハロペリドール | 2 |
リスペリドン | 1 |
オランザピン | 2.5 |
アリピプラゾール | 4 |
アドレナリンの作用反転により血圧が低下する可能性がありますので、アナフィラキシーなどの救急治療に使用する場合を除いて抗精神病薬はアドレナリン製剤と併用禁忌ですので注意が必要です
第1世代ではD₂遮断作用が強いので、パーキンソン病を悪化させる可能性があり、パーキンソン病患者には多くが禁忌となっています。
第二世代
- SDA(リスペリドン、ペロスピロン等)
- DSA(ブロナンセリン)
- MARTA(オランザピン、クエチアピン等)
- DSS(アリピプラゾール等)
第2世代抗精神病薬は、D₂受容体の遮断作用は第1世代ほど強くはありません。
しかし、セロトニン受容体など様々な受容体を遮断する作用を併せ持ちます。
セロトニン受容体も遮断することで、陽性症状だけではなく、陰性症状や認知機能障害にも効果があるとされています。
錐体外路症状や高プロラクチン血症の副作用は少ない一方で、体重増加や肥満、血糖値上昇など代謝系に影響を及ぼす副作用を持っています。
オランザピンやクエチアピンは糖尿病ケトアシドーシスによる死亡例が報告されており糖尿病患者には禁忌となっています。
リスペリドン内用液は飲料に注意
リスペリドンや後述するアリピプラゾールには内用液があります。
精神運動興奮状態において用いられやすい剤型です。
リスパダール内用液に関しては、コーラなど茶葉を含む飲み物と一緒に飲ませてしまうと効果が下がってしまいますので注意が必要です。
セロトニンドパミン遮断薬(SDA)
- リスペリドン(リスパダール)
- パリペリドン(インヴェガ)
- ペロスピロン(ルーラン)
- ルラシドン(ラツーダ)
- ブロナンセリン(ロナセン)※DSA
統合失調症は、中脳辺縁系のドパミン作動性神経の興奮による陽性症状や中脳皮質系のドパミン作動性神経の機能低下による陰性症状や認知機能障害などが発現する疾患です。
セロトニン作動性神経はドパミン作動性神経に対して抑制的に作用するため、セロトニン作動性神経の分布が多い中脳皮質系では、リスペリドンやパリパリドンによりドパミンの放出が保たれ陰性症状や認知機能障害が改善されます。
中脳辺縁系にはセロトニン神経の分布が少なくドパミン神経性の抑制は解除されないため、D₂受容体を遮断することで陽性症状が改善されます。
中脳辺縁系に作用するか、中脳皮質系に作用するかがポイントです。
- セロトニン受容体の分布が少ない部位(中脳辺縁系)では主に陽性症状。
- 多い部位(中脳皮質)では陰性症状や認知機能障害。
リスペリドンやパリペリドン、ペロスピロン、ルラシドンは、セロトニン受容体に対する遮断作用が、ドパミンD₂受容体遮断作用よりも強いとされています。
これらはセロトニンドパミン遮断薬(SDA)と呼ばれています。
ブロナンセリンはD₂受容体に対する遮断作用がセロトニン受容体よりも強いため、ドパミンセロトニン遮断薬(DSA) とも呼ばれています。
遮断作用
- SDA:D₂<セロトニン
- DSA:セロトニン<D₂
SDAの効果に差はない
薬物治療において第2世代で特定の薬剤の使用は推定されておらず SDAの中でも治療効果に大きな違いはないとされています。
海外での承認状況としてルーランは海外では発売されておらず、ブロナンセリンも中国や韓国で発売されているのみです。
一方でリスペリドンは世界100以上、パリペリドンは92か国、ルラシドンは47か国と地域で承認されており使用実績が豊富な薬剤であると言えます。
SDAとDSA
リスペリドンやパリペリドン、ペロスピロン、ルラシドンなどのSDAは、セロトニン受容体遮断作用が D₂遮断よりも強いです。
その為、ドパミン分泌作用を促すことから錐体外路症状の発現やプロラクチン上昇作用などの副作用が比較的少ないと言われています。
DSAのブロナンセリンは逆で、D₂受容体に対する親和性が強いため、抗精神病作用は強く陽性症状をより改善させるとされています。
リスペリドン (リスパダール) |
パリペリドン (インヴェガ) |
ペロスピロン (ルーラン) |
ブロナンセリン (ロナセン) |
ルラシドン (ラツーダ) |
|
効能・効果 | ①統合失調症 ②小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 |
統合失調症 | 統合失調症 | 統合失調症 | ①統合失調症 ②双極性障害におけるうつ症状 |
1日の投与回数 | 2回 | 1回 | 3回 | 2回 | 1回 |
併用禁忌 | ・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・中~重度の腎機能障害 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・アゾール系抗真菌薬、HIVプロテアーゼ阻害、コビシスタット |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・CYP3A4を強く阻害、誘導する薬剤 |
排泄経路 | 尿中・糞中 | ||||
腎機能低下時の減量 | 必要 | 不要 | 必要 | ||
海外承認 | あり | なし | あり |
各薬剤の特徴
リスペリドン(リスパダール)は用量依存的に錐体外路症状の発現が高くなり他の抗精神病薬と比べて高プロラクチン血症を起こしやすいとされています。
他の抗精神病薬よりもBBB(血液脳関門) を通過しにくいことがわかっており、BBB下位にある下垂体に影響しやすいです。
そのため、他の第2世代に比べて高プロラクチン血症を引き起こしやすいと考えられています。
パリペリドン(インヴェガ)は、 リスペリドンの主要代謝産物です。
ヒスタミン H₁受容体への親和性はリスペリドンに比べてやや弱いことが特徴です。
その為、リスペリドンと比べて副作用のふらつきや傾眠が軽減されています。
ペロスピロンやルラシドンは、セロトニン受容体への親和性が強く、抗不安や抗うつ症状に対しても効果を有しています。
DSAのブロナンセリン(ロナセン)は、アドレナリンα₁受容体とヒスタミン H₁受容体への親和性が低いです。
その為、眠気や体重増加などの副作用が起こりにくいとされています。
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相互作用
相互作用が多いものは、ブロナンセリンやルラシドンです。
CYP3A4を強く阻害するアゾール系抗真菌薬やリトナビルやなどの併用により血中濃度が上昇し作用が増強するおそれがあります。
また阻害作用を持つ薬だけではなく、誘導作用を持つリファンピシンやフェニトインとの併用により血中濃度が低下し作用が減弱するおそれがあるため、これらは併用禁忌となっています。
薬だけではなく、グレープフルーツも関係しており、CYPにより血中濃度が上昇するおそれがあります。
グレープフルーツジュースの非摂取時と比べて、ロナセンのCmax及び AUCがそれぞれ1.77倍および1.82倍に上昇したという報告もあります。
経皮吸収型製剤
ブロナンセリンは世界で初めて統合失調症を適応症として承認された経皮吸収型製剤であるテープ剤(ロナセンテープ)が発売されています。
一日一回皮膚に塗布することで、24時間安定した血中濃度を維持できるほか、食事の影響を受けにくいことや高齢者又は嚥下機能が低下した患者にも使用可能な薬剤となっています。
食事の影響
インヴェガは浸透圧を利用した薬剤放出制御システム(OROS)を用いた処方製剤です。
一日一回の服用で安定した血中濃度の維持を可能にした薬剤です。
リスペリドンは体内でCYP2D6により、代謝活性体であるパリペリドンに変換されることで効果を発揮します。
パリペリドンは最初から代謝活性体の形をしているため代謝酵素の影響を受けにくいという特徴があります。
そのため、リスパダールに比べて効果と副作用のバランスがとりやすいです。
ただし、インヴェガは空腹時に服用するとCmax及びAUCがそれぞれ36%および37%低下することが報告されています。
その他、睡眠中に副交感神経優位になることで腸の蠕動運動が活発化し、製剤が有効成分を放出している状態で排泄されてしまう可能性があります。
そのため、朝食後に服用する必要があります。
また、インヴェガ錠は吸湿によって薬物放出挙動が影響を受ける可能性があり、服用直前までシートから出さないことや、製剤残渣が糞便中に排泄されることを事前に患者に説明しておく必要があります。
インヴェガ、ロナセン、ルーラン、ルラシドンは、空腹時に服用することで血中濃度が低下してしまうため、食後に服用する必要があります。
一方、リスパダールは食事による影響を受けませんが、内用液は茶葉を含む飲料(ウーロン茶、紅茶、日本茶、コーラ)と混ぜると含量が低下するため注意が必要です。
空腹時における影響 | Cmax | AUC |
リスペリドン | 影響なし | 影響なし |
パリペリドン | 36%低下 | 37%低下 |
ペロスピロン | 55%低下 | 41%低下 |
ブロナンセリン | 43%低下 | 43%低下 |
ルラシドン | 41%低下 | 59%低下 |
肝・腎機能低下時
リスパダールやインヴェガ、ルラシドンは腎機能障害者に対して適宜減量が必要な薬剤です。
特にインヴェガは中等度から重度の腎機能障害者クレアチニンクリアランス50未満には投与禁忌であることに注意が必要です。
また、ルラシドンは中等度以上の肝機能障害者(child-Pugh分類B・C)で適宜減量な必要な薬剤です。
リスペリドン (リスパダール) |
パリペリドン (インヴェガ) |
ペロスピロン (ルーラン) |
ブロナンセリン (ロナセン) |
ルラシドン (ラツーダ) |
|
効能・効果 | ①統合失調症 ②小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 |
統合失調症 | 統合失調症 | 統合失調症 | ①統合失調症 ②双極性障害におけるうつ症状 |
1日の投与回数 | 2回 | 1回 | 3回 | 2回 | 1回 |
併用禁忌 | ・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・中~重度の腎機能障害 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・アゾール系抗真菌薬、HIVプロテアーゼ阻害、コビシスタット |
・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 ・CYP3A4を強く阻害、誘導する薬剤 |
排泄経路 | 尿中・糞中 | ||||
腎機能低下時の減量 | 必要 | 不要 | 必要 | ||
海外承認 | あり | なし | あり |
多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)
- オランザピン(ジプレキサ)
- クエチアピン(セロクエル)
- クロザピン(クロザリル)
- アセナピン(シクレスト)
MARTAはD₂受容体やセロトニン5HT₂受容体だけでなく、ドパミンD₁、D₃ D₄受容体、セロトニン5 HT₂ c、5HT₂、D₂受容体など、様々な受容体にほぼ同等で高い親和性を持つ薬剤です。
多種多様な受容体に作用する為、多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)と呼ばれています。
統合失調症治療薬に適用を持ち、第2世代として位置付けられています。
2021年10月時点ではオランザピン、クエチアピン、クロザピン、アセナピンの4種類が発売されています。
MARTA間の中でも治療効果には大きな違いはないとされています。
MARTAの各特徴
MARTA | オランザピン (ジプレキサ) |
クエチアピン (セロクエル) |
アセナピン (シクレスト) |
クロザピン (クロザリル) |
効能・効果 | ①統合失調症 ②双極性障害における躁およびうつ症状 ③抗がん剤投与時に伴う消化器症状 |
統合失調症 | 統合失調症 | 治療抵抗性統合失調症 |
1日の投与回数 | 1回 | 2~3回 | 2回 | 開始:1回 維持:2~3回 |
併用禁忌 | ・バルビツール酸の強い中枢影響下にある患者 ・アドレナリン投与中 ・糖尿病患者 |
・バルビツール酸の強い中枢影響下にある患者 ・アドレナリン投与中 ・糖尿病患者 |
・バルビツール酸の強い中枢影響下にある患者 ・アドレナリン投与中 ・重度の肝機能障害 |
・アドレナリン投与中 ・骨髄機能障害既往、又は骨髄機能抑制 ・持効性抗精神病薬投 ・麻痺性イレウス ・重度の心疾患、てんかん、肝機能障害 ・アルコールや薬物の急性中毒、昏睡状態 |
排泄経路 | 尿中・糞中 | |||
腎機能低下時 | 減量不要 | |||
海外承認 | あり |
クロザピン(クロザリル)
クロザピンは国内で唯一治療抵抗性統合失調症に対して適用を有する薬剤です。
他の治療と比較して有用であるという多数のエビデンスが存在しています。
そのため、治療抵抗性統合失調症においてクロザピンは第一選択薬となっています。
国内外のガイドラインでも推奨されていまが、クロザピンは顆粒球症や糖尿病ケトアシドーシス心筋炎など死に至る可能性のある重大な副作用のリスクがあります。
そのため、クロザリル患者モニタリングサービス(CPMS)の登録医療機関薬局で登録患者に対して血液検査などのCPMSに規定された基準全てを満たした場合にのみ使用ができる薬剤となっています。
原則、投与開始後18週間は入院管理が必要になることと、退院後も2~4週間に1回の通院と採血が必要になるなど適正使用が禁止されています。
MARTAはいずれも複数の受容体に作用しますので、D₂受容体に対する遮断作用はそこまで高くありません。
そのため、錐体外路症状や高プロラクチン血症が起こりにくいとされています。
クロザピンは特にD₂受容体に対する親和性が低いことが分かっています。
一方で、D₂受容体以外にアドレナリンアα₁受容体やヒスタミン H₁受容体遮断作用を有するため、めまいや立ちくらみなど低血圧症状や眠気などの副作用が発現する可能性があります。
抗コリン作用
オランザピンはムスカリン受容体遮断作用による口渇、便秘、排尿障害など抗コリン作用に注意が必要です。
アセナピンはムスカリン受容体への親和性はほとんど有しておらず、便秘傾向の強い感じやイレウスの既往を持つ患者にも使用しやすいことが特徴です。
オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者には禁忌
MARTAは体重増加や糖尿病ケトアシドーシスなど代謝系に影響を与える副作用持ちますが、オランザピンとクエチアピンは糖尿病ケトアシドーシスによる死亡例が報告されており、イエローレターが発出されています。
そのため、オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者には禁忌となっており、アセナピンは慎重投与となっています。
代謝
オランザピンやクロザピンはCYP1A2で代謝を受けます。
そのため、喫煙やCYP1A2を誘導する薬剤との併用により血中濃度の低下、またはCYP1A2を阻害する薬剤との併用により血中濃度が上昇する可能性がありますので注意が必要です。
しかし、喫煙に関してはアセナピンの薬物動態にはほとんど影響示さないことが分かっています。
その他、アセナピンはCYP2D6、3A4及びUGT1A4などの代謝酵素も関与しており、CYP2D6で代謝され、2D6を阻害するパロキセチンの血中濃度を上昇させることに注意が必要です。
クロザピンはCYP1A2の他にCYP3A4で代謝されるため、3A4を誘導する薬剤や3A4を阻害する薬剤の併用に注意が必要です。
クエチアピンも同様に3A4で代謝されるため注意が必要です。
アナセピンの舌下吸収
アナセピンは舌下投与により口腔粘膜から吸収される薬剤で、吸収が早いことから急性期の治療として使用が可能です。
肝臓での初回通過効果が大きく、バイオアベイラビリティが低いため飲み込んでしまうと吸収されないことに注意が必要です。
さらに本体の舌下投与後の10分間は飲食を避ける必要があります。
口腔内の感覚鈍麻など舌下錠特有の副作用が認められています。
アナセピンは肝臓での初回通過効果が大きいということから舌下錠という剤形になっています。
そのため、肝機能の影響をとても受けやすいです。
外国の臨床薬理試験において重度の肝機能障害(child-Pugh分類C)患者では、正常な患者と比べAUC が5.5倍増加するというデータがあり、投与禁忌となっています。
ドパミン部分作動薬(DSS)
- アリピプラゾール(エビリファイ)
- ブレクスピプラゾール(レキサルティ)
アリピプラゾールはドパミン部分作動薬(DSS)と呼ばれています。
D₂受容体に高い親和性を示しますが、完全に遮断するのではなく部分的な刺激作用を有する薬剤です。
そのため、ドパミン作動性神経が過剰に活動している場合は拮抗薬として、活動が低下している場合は刺激薬として作用します。
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)は、セロトニン・ドパミンアクティビティモジュレーター (SDAM)と呼ばれ、D₂受容体に対し弱い部分刺激作用に加え、セロトニン5HT₁A受容体に対する強い部分刺激作用とセロトニン5HT₂A受容体に対する拮抗作用を有する薬剤です。
統合失調症における陽性症状や陰性症状の改善だけでなく眠気や体重増加を起こしにくいことから長期的な服用継続が期待されている薬剤でもあります。
アリピプラゾール (エビリファイ) |
ブレクスピプラゾール (レキサルティ) |
|
効能・効果 | ①統合失調症 ②双極性障害における躁状態 ③うつ病(治療抵抗性) ④小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性 |
統合失調症 |
1日の投与回数 | 1~2回 | 1回 |
併用禁忌 | ・バルビツール酸等の強い中枢抑制下 ・アドレナリン投与中 |
|
排泄経路 | 尿中・糞中 | |
腎機能低下時 | 減量不要 | 減量必要 |
海外承認 | あり |
統合失調症の薬物療法は第2世代の使用が主流です。
しかし、第2世代においても錐体外路症状の発現や体重増加糖尿病ケトアシドーシスなどの代謝系に影響を及ぼす新たな副作用の発現が見られています。
そこで、2006年に従来の第二世代とは作用機序の異なるエビリファイが発売され、2018年にはレキサルティが発売されました。
統合失調症における治療は中核症状の改善や再発防止だけではなく、社会技能やQOLに重点を置いた治療が必要とされています。
エビリファイは統合失調症だけではなく、うつ症状や双極性障害、小児期の自閉スペクトラム症など様々な適応が通っています。
レキサルティに関しては適用は統合失調症だけです。
なお、腎機能低下時の減量についてはアリピプラゾールは必要ありませんが、レキサルティに関しては投与量の減量が必要となっています。
レキサルティはD₂刺激が弱い
レキサルティはエビリファイと比べてセロトニン系の作用が強力であることと、D₂受容体に対する固有活性が低い部分アゴニストである特徴が挙げられます。
薬理学的な特性から体重増加や代謝系の副作用、錐体外路症状の軽減が期待されています。
また、D₂受容体の刺激が弱いことから、エビリファイより鎮静作用が弱いという報告もあります。
よく患者が訴えるムズムズ感は、錐体外路症状の中のアカシジアと呼ばれる症状の一種です。
エビリファイからレキサルティに変更することで症状を軽減させるための一つの選択肢となることも期待されます。
エビリファイ内用液は飲料に注意
アリピプラゾールは剤形が豊富で、高齢者や嚥下機能が低下した患者には使いやすいです。
ただし、エビリファイ内用液は飲料の制限が多いです。
- 煮沸していない水道水
- 硬度の高いミネラルウォーター
- 茶由来飲料(紅茶、ウーロン茶、緑茶、玄米茶など)
- 味噌汁などの飲食物
これらの併用により残量低下、混濁が生じることがあるため注意が必要です。
エビリファイ内用液 患者向医薬品ガイド (otsuka.co.jp)より
糖尿病患者へは禁忌ではなく警告
アリピプラゾールは糖尿病患者への投与に警告文が設定されています。
オランザピン、クエチアピン、クロザピン以外の抗精神病薬の中で唯一添付文書上で糖尿病患者への投与について警告の記載がある薬剤です。
アリピプラゾールは、国内臨床試験において血糖値やヘモグロビンA₁cについて詳細な検討がされていないことや、オランザピンやクエチアピンにおける注意喚起の状況などを踏まえ予防的な措置として警告欄に血糖値モニタリングならびに患者及びその家族への説明の必要性においてオランザピンや、クエチアピンと類似した注意喚起が記載されています。
一方、レキサルティは国内外の臨床試験や海外製造販売後安全性情報からオランザピンやクエチアピン以外の抗精神病薬と比較して耐糖能異常のリスクは高くないと考えられているため、警告欄は設定されておらず、他の抗精神病薬と同様の表記となっています。
代謝
アリピプラゾールもレキサルティもCYP3A4および2D6で代謝されるためこれらにより阻害されたり誘導されたりする薬剤によって血中濃度が変動するおそれがあるので注意が必要です。
またレキサルティはCYP3A4または2D6を強く阻害する薬剤と併用する際や2D6の活性が欠損している患者では添付文書上で減量が規定されていることに注意が必要です。
まとめ:大まかな使い分け
第一世代(定型抗精神病薬)
- 幻覚や妄想などの陽性症状を改善させるが、陰性症状に対する効果は薄い
- 至適用量はクロルプロマジン換算で300~600mg
- 多くがアドレナリン投与中やパーキンソン病には禁忌
セロトニンドパミン遮断薬(SDA)
- SDA:D₂<セロトニン
- SDAの効果に大きな差はない
- SDAはセロトニン受容体遮断作用が D₂遮断よりも強い為、プロラクチン上昇作用などの副作用が比較的少ない
- リスペリドンは他のSDAと比べてプロラクチン上昇を起こしやすい
- リスパダール内用液は茶葉由来(お茶やコーラなど)との服用で含量低下
- パリペリドンはリスペリドンの代謝物で、リスペリドンよりも副作用が少ない
- パリペリドンは朝食後服用の必要があり、糞中に製剤残渣が排泄される
- ペロスピロンやルラシドンはセロトニン受容体の親和性が強い
ドパミンセロトニン遮断薬(DSA)
- DSA:セロトニン<D₂
- DSAはD₂受容体に対する親和性が強いため、SDAより強く陽性症状をより改善させる
- ブロナンセリンは眠気や体重増加の副作用が少なめ
SDA・DSA
- ルラシドンやブロナンセリンはCYP3A4やグレープフルーツジュースには注意
- リスペリドン以外は空腹時服用で吸収が低下するので注意
MARTA
- MARTA間の中でも治療効果には大きな違いはない
- クロザピンは国内で唯一治療抵抗性統合失調症に対して適用を有する
- クロザピンは重大な副作用リスクがある為、CPMSに規定された基準全てを満たした場合にのみ使用ができる
- MARTAはD₂受容体への親和性が低いが、クロザピンは特にD₂受容体に対する親和性が低い
- D₂受容体親和性が低いので、錐体外路症状や高プロラクチン血症が起こりにくい
- オランザピンは抗コリンの副作用に注意が必要
- アセナピンは抗コリン作用が少なく、イレウスの既往を持つ患者にも使用しやすい
- オランザピンとクエチアピンは糖尿病患者には禁忌
- アナセピンは舌下投与により口腔粘膜から吸収される
- アセナピンは口腔内の感覚鈍麻など舌下錠特有の副作用がある。
ドパミン部分作動薬(DSS)
- ドパミン作動性神経が過剰に活動している場合:拮抗薬として作用
- ドパミン作動性神経が低下している場合:刺激薬として作用
- D₂刺激作用:レキサルティ<エビリファイ
- エビリファイ内用液は混ぜると含量低下するものが多いので注意
- アカシジア例にはレキサルティの使用が期待
- 糖尿病患者への使用には注意が必要
- レキサルティの適応は統合失調症のみ
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)