【循環器】ARB、ACE阻害薬の使い分け

薬局業務
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本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。

ここではARB、ACE阻害薬の使い分けをまとめています。

私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。

 

先にまとめ:全体の使い分け

ARB・エンレスト

  • 降圧効果はARB>ACE阻害薬
  • 心血管イベント抑制効果はACE阻害薬>ARB
  • アジルサルタンが最も降圧効果が高い
  • テルミサルタンやバルサルタンの心血管イベント抑制効果は、ACE阻害薬と同等クラス
  • ロサルタンは尿酸値低下や腎保護作用あり
  • オルメサルタンとテルミサルタンはCYP関与なし
  • カンデサルタンとバルサルタンは小児適応あり
  • エンレストは、ACE阻害薬からの切り替え時は36時間以上空けること
  • エンレストの心血管死や心不全の入院リスク軽減効果はACE阻害薬以上

ACE阻害薬

  • ACE阻害薬間で効果に差はないと言われている
  • ACE阻害薬の血管浮腫は、DPP-4阻害薬との併用でリスク増
  • エナラプリルとリシノプリルは慢性心不全(軽症から中等症)と小児適応あり
  • イミダプリルは空咳が少ない上、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症に適応あり
  • テモカプリルは腎・胆汁排泄型

ARBとACE阻害薬の使い分け

ARBはACE活性に影響を与えないことからACE阻害薬で認められる空咳の副作用が少ないといわれています。

『高血圧症治療ガイドライン2019』では、ARBはカルシウム拮抗薬やACE阻害薬、利尿剤とともに積極的な適用がない場合の高血圧に対して最初に投与すべき降圧薬の第一選択に位置付けられています。

他のカルシウム拮抗薬や利尿剤との併用で治療効果を上げることが期待できますが、一般的に ACE 阻害薬との併用は推奨されてはいません。

 

 

ARBとACE阻害薬の降圧効果は、ほぼ同等もしくは ARB の方がやや強いとされています。

心筋梗塞における心血管病イベントの2次予防などに関しては、ACE阻害薬の方がエビデンスが確立しています。

そのため、日本と欧米の『心筋梗塞2次予防に関するガイドライン』や『心不全診療ガイドライン』のHFrEF左室駆出率40%未満では 、RA 系阻害薬としては ACE 阻害薬を優先することとされています。

 

むかたけ
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『HFrEF左室駆出率40%未満』は簡単にいうと収縮機能が低下した心不全を言います。50%以上で収縮機能が保たれているとされています。

 

ACE阻害薬の副作用に対する忍容性がない場合に、ARBを用いるとしています。

なので、心筋梗塞後の心血管イベント抑制などの場合は、ARBよりACE阻害薬を優先するということです

 

むかたけ
むかたけ

たまにARBとACE阻害薬を併用している処方せんを見かけますが、ACE阻害薬は降圧目的ではなく、心血管イベント抑制が目的なのでしょう。

 

ARBの比較

現在、7種類のARBがありますが、それぞれを直接比較した試験はありません。

しかし、アジルバを除く6剤はエナラプリルを対照群として比較試験で承認されています。

 

結論、アジルバが最も強く、次いでオルメサルタン、テルミサルタン、イルベサルタンの降圧効果が高いとされています。

『米国心臓協会ガイドライン』では、アジルバが他のARBと比較して24時間自由行動下血圧測定で降圧効果が高いことが示唆されています。

 

むかたけ
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要はARBの中ではアジルバの降圧作用が一番強いと言うことです。

 

ガイドライン2019で言及されているエビデンスでは、テルミサルタンは血圧コントロールがなされている心血管リスクの高い患者に対して ACE 阻害薬と同等の心血管イベント抑制の効果が示されています。

 

バルサルタンは左室機能不全及び心不全を合併する心筋梗塞のハイリスク患者の総死亡や心血管イベントの抑制についてバルサルタンはACE 阻害薬に対して非劣性であることが示されています。

 

むかたけ
むかたけ

心血管イベント抑制に関しては、テルミサルタンやバルサルタンがACE阻害薬に引けを取らない成績となっています。

 

テルミサルタンは最も半減期が長く、次いでイルベサルタン、アジルサルタン、オルメサルタンとなっています。

薬剤名 半減期(hr)
アジルサルタン 13.2
イルベサルタン 13.6
オルメサルタン 11
カンデサルタン 9.5
テルミサルタン 20.3
バルサルタン 3.9
ロサルタン 1.7

 

一方、バルサルタンは半減期が短いため1日2回投与が必要な場合もあります。

しかしバルサルタンの1日2回投与は日本で承認されている用法用量と異なりますので注意が必要です。

 

ロサルタンは尿酸低下作用が特徴です。

こちらの作用についてはエビデンスが集積していると評価されている他、心筋梗塞後のハイリスク患者を対象とした試験において ACE阻害薬に忍容性のない患者に耐えて使用できることが示唆されています。

高血圧および蛋白尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症の適応もあります。

 

むかたけ
むかたけ

実際の現場でも、腎保護目的や尿酸値が高めの患者に処方されている印象です。

 

代謝

ARBはいずれも肝代謝で、CYPの関与については各薬剤で異なります。

薬剤名 CYP代謝
アジルサルタン 2C9
イルベサルタン 2C9、3A4
オルメサルタン 関与なし
カンデサルタン 2C9
テルミサルタン 関与なし
バルサルタン 2C9(関与低い)
ロサルタン 2C9、3A4

 

オルメサルタンとテルミサルタンはCYP関与がないとされています。

その為、複数の薬剤を同時に内服している患者においては相互作用を回避することができる利点があります。

 

テルミサルタンは胆汁排泄型で長時間作用型でもあり、PPAR γ活性化作用が特徴です。

 

注意点

ARBは妊婦、授乳婦への投与が禁忌です。

重症肝障害患者には慎重投与となっていて、高齢者やCKD患者では腎機能の悪化やカリウム血症の発現に注意が必要です

 

ちなみに、小児適応があるものは、カンデサルタン(1歳以上)とバルサルタン(6歳以上)のみです。

 

むかたけ
むかたけ

カンデサルタンは腎実質性高血圧症やACE阻害薬が適切でない慢性心不全(軽症から中等症)にも使える為、治療の幅が広い印象です。

 

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エンレスト

2020年8月に発売されたエンレストは、AT1拮抗作用とネプリライシン阻害作用を有します。

当初は心不全の適用のみでしたが、2021年9月に高血圧の適用も承認されることとなりました。

ただし、第一選択薬ではありませんので注意が必要です。

 

エンレストは、RAASの抑制と、ナトリウム利尿ペプチドに働きかける新しい作用機序となっています。

海外の大規模試験では、エナラプリルと比較して心血管死および心不全による入院リスクを20%減少させた結果となっています。

 

注意点

 

慢性心不全に使う場合は、ACE阻害薬からの切り替えが前提となります。

ACE阻害薬を中止してから36時間以内は、血管浮腫のリスクが高まりますので、禁忌扱いとなっています。

 

むかたけ
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高血圧で使う場合はACE阻害薬からでなくても大丈夫です。

 

エンレストについては使用後すぐにBNPの上昇が認められることがありますが、フィードバックにより上がっているだけで特に問題はありません。

 

ただ、NTPro-BNPが上昇している場合は、エンレストが合っていない可能性、もしくは効果がない可能性がありますので、検査値はチェックしましょう。

 

ACE阻害薬について

日本においては、ARBの使用頻度は高めですが、欧米ではACE 阻害薬の方が廉価で高圧と独立した冠動脈イベント抑制効果などのエビデンスがあることなどからRA系阻害薬の第一選択はACE阻害薬となっています

降圧効果のエビデンスに関してはARBよりもエビデンスが豊富です。

 

ただ効果そのものに関しては、ARBとほぼ同等かやや弱いとされています。

 

心筋梗塞における心血管病イベントの2次予防に対するACE阻害薬の有用性は確立しています。

『急性慢性心不全診療ガイドライン2017年』では心不全症状の有無に関わらず LVEF低下例及び心筋梗塞後患者において、高血圧の有無によらずRA系阻害薬としては、ACE阻害薬を投与し忍容性がない場合にはARBを用いることが推奨されています。

 

むかたけ
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心機能低下例や心筋梗塞後の患者にはARBよりACE阻害薬が優先ということですね。

 

降圧効果に関しては、ACE 阻害薬の間で大きな差はないと考えられています。

 

副作用

ACE 阻害薬の副作用には、ブラジキニンの作用増強による空咳があります。

これは、日本人を含む東アジア人に多いとされています。

そのため、日本における最大投与量は欧米と比較して少量に設定されています。

 

イミダプリルが空咳の発生率が低いと報告もありますが、それ以外にACE阻害薬の間で差はないようです。

 

また、重大な副作用には血管神経性浮腫があり2型糖尿病治療薬のDPP-4阻害薬との併用で増加するという報告がありますので注意が必要です.

 

基本的には妊婦授乳婦には禁忌であることと高カリウム血症には注意が必要である点はARBと同様です

エナラプリル及びリシノプリルは、慢性心不全(軽症から中等症)に適応があります。

イミダプリルは1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症の適応症が承認されているほか、エナラプリルは小児生後1ヶ月以上に、リシノプリルは小児6歳以上に対して高血圧症の適応が承認されています

 

ACE阻害薬は基本的に腎排泄ですが、テモカプリルは活性体の糞便排泄が36~44%に排泄が、18~24%であり腎と胆汁排泄が合わさった型とされています。

ACE阻害薬は腎機能低下例に関しては、基本的には減量等の措置を行えば使用可能ということになっています。

 

まとめ:全体の使い分け

ARB・エンレスト

  • 降圧効果はARB>ACE阻害薬
  • 心血管イベント抑制効果はACE阻害薬>ARB
  • アジルサルタンが最も降圧効果が高い
  • テルミサルタンやバルサルタンの心血管イベント抑制効果は、ACE阻害薬と同等クラス
  • ロサルタンは尿酸値低下や腎保護作用あり
  • オルメサルタンとテルミサルタンはCYP関与なし
  • カンデサルタンとバルサルタンは小児適応あり
  • エンレストは、ACE阻害薬からの切り替え時は36時間以上空けること
  • エンレストの心血管死や心不全の入院リスク軽減効果はACE阻害薬以上

ACE阻害薬

  • ACE阻害薬間で効果に差はないと言われている
  • ACE阻害薬の血管浮腫は、DPP-4阻害薬との併用でリスク増
  • エナラプリルとリシノプリルは慢性心不全(軽症から中等症)と小児適応あり
  • イミダプリルは空咳が少ない上、1型糖尿病に伴う糖尿病性腎症に適応あり
  • テモカプリルは腎・胆汁排泄型

最後に

大まかな使い分けは以上となります。

医療業務の参考になれば幸いです。

ではでは。

参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)

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