本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは利尿剤のサイアザイド系、ループ系、MR系、V₂受容拮抗の使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:各薬剤の使い分け
- 降圧目的:サイアザイド系
- うっ血目的:ループ系
- K保持:MR拮抗
- フロセミドは短時間、アゾセミド・トラセミドは長時間
- 心不全にはアゾセミド、トラセミド>フロセミド
- ループ系の長期投与は骨量減少のリスクあり
- 低カリウムのリスクはトラセミドが最も低い
- ループ系とジギタリス製剤との併用は注意
- MR拮抗とACE阻害薬、ARBとの併用は注意
- V₂受容体拮抗薬は水だけを抜くので、高Na血症に注意
- MR拮抗では、効果はスピロノラクトン>エプレレノン・エサキセレノン
- スピロノラクトンは非選択性の為、性ホルモン副作用が男性の10%で出現
- 性ホルモン副作用はスピロノラクトン>エプレレノン>エサキセレノン
利尿剤の分類
利尿剤は大きく以下に分類出来ます
- ループ利尿薬
- サイアザイド系利尿薬
- ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬
- バソプレシンV₂受容体拮抗薬
があります。
ループ系
ループ利尿薬はNAClやカリウムの再吸収を抑制します。
フロセミド、アゾセミド、トラセミドなどが該当します。
サイアザイド系
サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管のナトリウムとクロルの再吸収を抑制して利尿効果を発揮します
一般的に作用時間が長く持続的に血圧を低下させる為、多くは降圧薬として利用されることが多いです
代表的な薬剤はヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジドなどがあります。
なお化学式に、サイアザイド骨格を有するサイアザイド系利尿薬とサイアザイド骨格を有さないサイアザイド系類似利尿薬が存在しますが臨床効果の差異は明らかではありません。
MR拮抗
ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬は、RAA系の最終産物であるアルドステロンのミネラルコルチコイド受容体への結合を抑制することで循環血流の増加を抑制することができます。
多くの利尿剤がカリウム排泄による低カリウム血症をもたらしますが、MR拮抗薬はカリウム排出を抑制することからカリウム保持性利尿薬とも呼ばれます。
代表的な薬剤にスピロノラクトン、エプレレノンなどがあります
V2受容体拮抗薬
V₂受容体拮抗薬は、ナトリウムの再吸収抑制に関わらない作用機序となっています。
これは腎臓集合管のバソプレシン v2受容体を阻害して水の再吸収を抑制することで水利尿作用を示すことができます。
塩類の排泄を増加させずに利尿作用を得ることができる新しい作用機序と言われています。
欧米では2009年。日本では2010年に発売が開始された比較的新しいお薬です。
成分ではトルバプタン(サムスカ)が該当します。
利尿剤の使い分け
降圧ではサイアザイド系
『高血圧治療ガイドライン2019』においては、積極的適応はない高血圧の第一選択薬となっています。
高血圧には基本的にサイアザイド系利尿薬が使用されることが多いです。
少量からの開始により代謝性副作用の発現を抑え良好な降圧効果を得られることから少量の利尿薬として推奨されています
降圧作用はサイアザイド系>ループ系
ループ利尿薬では高度腎機能低下末期腎不全患者に対して使用される場合がありますがサイアザイド系利尿薬に対して降圧作用は弱めとなっています
サイアザイド系利尿薬による高血圧治療は、心不全発症予防効果が高く心不全予防のための危険因子に対する介入においてクラス1Aに位置付けられています。
MR拮抗薬は、治療抵抗性高血圧症に対して更なる降圧を図るために使用する形です。
降圧目的では、サイアザイド系>ループ系、MR拮抗なイメージです
うっ血対策にはループ利尿薬
心不全においては国内外のガイドラインにおいて利尿薬はうっ血に基づく症状の改善への投与が推奨されています。
基本的には強力な利尿作用を有するループ利尿薬が使用されることが多いです。
ただ、ループ系は慢性期におけるエビデンスはほとんど存在しないばかりか、生命予後の悪化報告もされています。
『高齢者薬物療法ガイドライン』においても、病状の改善とともにループ利尿薬は減量や中止を試みるべきと記載されていますので要所要所での使用が推奨されています。
ループ利尿薬単独では十分な利用が得られない場合には、サイアザイド系利尿薬の併用も選択肢の一つとなります
うっ血にはループ系>サイアザイド系なイメージですね。
治療抵抗性にはV₂も検討
バソプレシンV₂受容体拮抗薬は、他の利尿薬で効果が不十分な場合に体液貯留に基づく症状の改善うっ血コントロールを目的として投与が推奨されています。
ただ、急性心不全に対する大規模臨床試験において長期予後の改善は認められていません。
一方で、入院中早期にバソプレシンV₂受容体拮抗薬を導入することで腎機能悪化の予防が認められていますが、それが長期予後改善に繋がるかについては未だ明確ではありません。
まだ新しいお薬なので、データが出揃ってない印象ですね
電解質は残しつつ水だけを強力に排泄するので、高ナトリウム血症に注意が必要であり、入院下での投与開始が規定されています。
適応は『心不全、肝硬変における体液貯留』です。
他の利尿剤が効果ない時に使う『最後の手段』的なイメージを持っています。
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各利尿剤の副作用
サイアザイド系の副作用
サイアザイド系利尿薬による副作用には以下が多いです。
- 高尿酸血症
- 高中性脂肪血症
- 低ナトリウム血症
- 低カリウム血症
など、代謝系や電解質異常への影響に注意が必要です。
現場では尿酸値の上昇が多いイメージです。
ループ系の副作用
ループ利尿薬による副作用は、体液減少や電解質異常が最も多いです。
多くの場合は治療初期2~3週間の間で発生することが多いです。
耳関連の副作用
まれに耳毒性や間質性腎炎も生じ、長期投与により骨量が減少した報告もされています。
耳毒性は耳鳴り、難聴などの症状が認められ、主にループ利尿薬の高用量投与で多く報告されています
急性又は慢性の腎臓病を有する患者やアミノグリコシド系抗生物質などの他の潜在的な耳毒性物質を有している患者で発現のリスクが高くなるとされています。
骨量減少の副作用
ループ利尿剤の長期投与により骨量の減少が報告されています
65歳以上の女性を対象に実施された試験における多変量解析の結果です。
最も骨密度に影響の強い要因がループ利尿薬の使用とされていて、特に高齢者では配慮が必要となってきます。
MR拮抗の副作用
MR拮抗薬は、収縮機能の低下した心不全や心筋梗塞の予後を改善します
『高血圧治療ガイドライン』ではスピロノラクトンは廉価で可用性も高く優れた降圧効果を考慮すると治療抵抗性高血圧では追加を考慮すべきとの記載もあります。
心不全で併用される可能性の高いACE阻害薬またはARBとの併用により、血清カリウムの上昇に伴う死亡入院などが増加するとの報告があるため、カリウム値のモニタリングが重要です。
循環器内科にかかっている方の多くは、MR拮抗とACE阻害薬やARBを併用しているケースが非常に多いので、注意しています。
ループ利尿薬の使い分け
ループ利尿薬は
- フロセミド(ラシックス)
- アゾセミド(ダイアート)
- トラセミド(ルプラック)
の3種類があります
フロセミドとアゾセミド
大きな特徴としては、フロセミドとアゾセミドは大きく分けることが出来ます。
フロセミドは短時間作用型でアゾセミドは長時間作用型という点です。
この2つを比較した場合、アゾセミドの方が心血管死またはうっ血性心不全による予期せぬ入院が有意に少なかったとされています
この結果を踏まえ、日本のガイドラインにおいては LVEFの保たれた心不全について長時間作用型の利尿剤の選択がクラス1 Bに位置付けられています。
心収縮機能が保たれてる心不全には、アゾセミド、トラセミド>フロセミドという結果ですね。
フロセミドはバイオアベイラビリティ(BA)が50%と個人差が大きく、特にうっ血の強い症例では腸管浮腫を伴い効果が不十分になる可能性があります。
ループ利尿薬の中で唯一注射剤(ラシックス注)があるもので、特に非代償性心不全の急性期に即効性と確実な効果を期待して静脈投与が行われます。
トラセミド
トラセミドはBAが90%と高く、安定した効果が得られやすいとされています。
また、抗アルドステロン作用も持っていて、フロセミドと比較して低カリウム血症が起きにくいことが報告されています。
低カリウムのリスクが低く、安定性があるのがトラセミドと言えます。
夜間の休息が特に必要な患者における夜間の排尿避けるため、添付文書上ではフロセミドは昼間の投与となっています。
アゾセミドとトラセミドは、午前中の投与が望ましいと記載されていて、作用持続時間を反映した服用設定となっています。
ジギタリス製剤との併用には注意
心不全治療で使用される可能性のあるジギタリス製剤では、利尿薬による血清カリウム値の低下により重症不整脈の誘発増悪に関与することがあります。
心不全患者での、ジギタリス製剤の併用は本当に多いので、ジギタリス中毒の初期症状(吐き気、めまい、下痢など)には注意しましょう。
MR拮抗薬の使い分け
MR拮抗薬は大きく3つです。
- スピロノラクトン(アルダクトン)
- エプレレノン(セララ)
- エサキセレノン(ミネブロ)
各種ガイドラインでは、『スピロノラクトンは廉価で可用性も高く優れた降圧効果を考慮すると治療抵抗性高血圧ではスピロノラクトン追加を考慮すべきである』とされています。
そのほか、エプレレノンより降圧作用が強く高血圧や心不全で臓器保護作用は示されているとの記載もあります。
海外で実施された原発性アルドステロン症患者を対象とした比較試験では、『スピロノラクトン75~225 mgはエプレレノン100~300mgに比べ優れた降圧効果を示した』という結果もあります。
効果はアルダクトン>セララですが…
スピロノラクトンはミネラルコルチコイドを非選択的に阻害する為、男性患者の約10%で性ホルモン関連副作用が生じるとされています。
女性化乳房は投与中止により通常1~2ヶ月で消失されるとされていますが、まれに持続する例も見られるようです。
投与中止が不可能な場合や患者の愁訴の強い例に対しては、ホルモン療法も考慮する必要があります。
エプレレノンは性ホルモン関連副作用が極めて少ないことから、スピロノラクトンの忍容性の悪い例では臨床的に有用であるとの記載があります。
エプレレノンはミネラルコルチコイド受容体に対する選択性が、スピロノラクトンの約8倍であり性ホルモン関連副作用の発現頻度は少ないとされています。
降圧作用や心保護はスピロノラクトン>エプレレノンですが、性ホルモン関連の副作用はエプレレノンの方が極めて少ないということですね。
エプレレノン(セララ)は代謝系に注意
性ホルモン少なめなエプレレノンですが、代謝経路がCYP3A4となっています。
その為、3A4阻害薬および誘導薬との併用には注意が必要です。
特に、イトラコナゾールやリトナビル、ネルフィナビルなどとは併用禁忌です。
高血圧適用時のカリウム製剤についても、併用禁忌となっていますので注意が必要です。
エサキセレノン(ミネブロ)について
エサキセレノンについては、エプレレノンと同様にカリウム製剤の併用は禁忌です。
しかし、エプレレノンで禁忌の『アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者や中等度の腎機能障害にある患者』にも慎重投与で使用することが出来ます。
効果もエプレレノンと同等と言われていますので、糖尿病患者や腎機能低下例には使用しやすい製剤となっています。
スピロノラクトンやエプレレノンはステロイド骨格となっていますが、エサキセレノンは非ステロイド骨格です。
その為、エプレレノン以上に性ホルモン関連副作用が出現しにくいことが特徴です。
まとめ:各薬剤の使い分け
- 降圧目的:サイアザイド系
- うっ血目的:ループ系
- K保持:MR拮抗
- フロセミドは短時間、アゾセミド・トラセミドは長時間
- 心不全にはアゾセミド、トラセミド>フロセミド
- ループ系の長期投与は骨量減少のリスクあり
- 低カリウムのリスクはトラセミドが最も低い
- ループ系とジギタリス製剤との併用は注意
- MR拮抗とACE阻害薬、ARBとの併用は注意
- V₂受容体拮抗薬は水だけを抜くので、高Na血症に注意
- MR拮抗では、効果はスピロノラクトン>エプレレノン・エサキセレノン
- スピロノラクトンは非選択性の為、性ホルモン副作用が男性の10%で出現
- 性ホルモン副作用はスピロノラクトン>エプレレノン>エサキセレノン
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)