抗うつ薬を使ってる患者さんの薬歴を見ていた時のことです。
『この患者さん薬変更になってる。
…なになに?SSRIからSNRIに変更?』
SSRIは脳内のセロトニン量を増やす薬。
SNRIは脳内のセロトニンとノルアドレナリン量を増やす薬です。
正直この辺の薬はセロトニンとノルアドレナリンの作用がわかってないと非常に混乱する分野です。
私の後輩も、
『学校で勉強したんですけど、いまいちよくわかってなくて…
似た薬っていうのはわかるんですけど…』
と、しどろもどろしながら答えてました。
今回は抗うつ薬の作用機序の土台となる神経伝達物質の作用とSSRI・SNRIの使い分けについてお話します。
抗うつ薬で混乱する方の参考になれば幸いです。
各抗うつ薬の大まかな使い分けはこちらをご参照ください(*´Д`)
脳内の神経伝達物質は大きく3つ
神経伝達物質は何種類もありますが、とりわけ脳内の神経伝達物質で重要なのは3つです。
- ドパミン
- ノルアドレナリン
- セロトニン
こちらの3つとなります。
ドパミン
ドパミンは一言で言えば『モチベーション』に強く影響する神経伝達物質です。
てかこれ脳内麻薬です。
『パチンコで大当たりした時には、脳汁(脳内麻薬)どばどばでしたわ』
とかのあれです。
何かをした時の過程や結果として幸福感や快楽感を得られた際には脳内のドパミンが大量に出てます。
ヒトは行動を起こす前にはその結果を少なからず想像出来る生き物です。
行動の結果、自分にとって幸福や快楽に繋がるのであれば行動しようとします。
なので、ドパミンはモチベーションに強く影響する神経伝達と言えます。
モチベーションが高ければ行動に対する興味も高くなりますので、自然と記憶力や向上心など、様々な感情に付随してくることになります。
ただ、悪い方向に働くと依存性に繋がります。
アルコールやギャンブルなどの依存性に関してもこのドパミンが働いています。
やめられない止まらない
中でも覚せい剤はこのドパミンを無理やり稼働させる物です。
なので非常に依存性が強く、抜け出すのに苦労すると言われているのはこの為です。
ノルアドレナリン
ノルアドレナリンは一言で言えば『やる気』に強く影響する神経伝達物質です。
ちなみにモチベーションとやる気の違いですが、
『モチベーション』は行動する為の動機付け、『やる気』は物事に対して進んで取り組もうとする気持ちとなります。
ノルアドレナリンと言えば交感神経が有名で、血圧や心拍数を上げるホルモンとして知られています。
脳内でも覚醒の方向に作用して、物事への感心を上げ行動しやすい身体の状態にします。
要は『やる気スイッチ』押してくれる感じです(‘ω’)ノ
実はノルアドレナリンはドパミンから作られます。
巷ではスマホ依存があります。
これはスマホを操作することで多くの情報を得られることや他者とのコミュニケーションが出来ることで生じる依存症です。
スマホいじる=幸せ
過去の経験や未来への予想によってこのような報酬系が成り立っていれば、ドパミンによりモチベーションは高くなってるでしょう。
そしてドパミンからノルアドレナリンが作られて、やる気や行動を起こしやすくなるといった形です。
欲に正直な生き物の頭の作りとしては非常に合理的な仕組みとなっています。
ノルアドレナリンは生き物にとっての生存本能に大きく関わる物質でもあります。
外敵から身を守る為に血圧や心拍数を上げ、闘争心や危険察知を高めたりするのには必須となっています。
その為、ノルアドレナリンが多くなれば不安やパニックなど、マイナス面の感情も生じてしまいます。
セロトニン
セロトニンは一言で言えば『精神安定』役で、精神を安定させるために脳内のバランスを保つ作用を持っています。
先程の神経伝達物質がドパミンとノルアドレナリンだけであれば、ただ欲に向かって突き進むだけとなってしまいます。
そうなればヒトとして人間の社会性が保てなくなります。
一瞬でお巡りさんのお世話になりそうなことが予想出来ますね( ゚Д゚)
セロトニンはドパミンやノルアドレナリンの過剰を抑える作用があります。
社会性を保つ働きがあるので、『理性』に大きく影響している神経伝達物質でもあります。
セロトニンはドパミンやノルアドレナリンと違って別経路から作り出されます。
なので、ドパミンやノルアドレナリンとは一線引いた作用になっています。
ドパミン、ノルアドレナリンの原料となる『チロシン』やセロトニンの原料となる『トリプトファン』はアミノ酸です。
普通に食事してたら不足することは少ないので、ご飯はちゃんと食べましょう(*´Д`)
セロトニンは精神を落ち着けてリラックスさせる作用も持っています。
巷じゃ『幸せホルモン』とも呼ばれていますね
車で例えるなら、ドパミンやノルアドレナリンがアクセルで、セロトニンはブレーキといった役回りです。
ちなみに女性のセロトニン量は男性のセロトニン量の2/3とされています。
なので、女性の方が感情豊かで不安を覚えやすかったりヒステリーになりやすいとも言われてますね。
まぁこの辺は個人差大きいので何とも言えませんが…(;^ω^)
長期のストレス環境には要注意
うつ病の種類はいくつかあり、その原因も多岐に渡ります。
なので、一概に神経伝達物質の過不足だけが原因とは言い切れません。
ただ、世間一般でよく聞く、
『社畜生活が続いてうつになった』
とかのパターンは長期ストレスの環境が原因によることが多いです。
ノルアドレナリンのようなアクセル系の神経伝達物質はストレスに反応して分泌されることが多いです。
そして、セロトニンのようなブレーキ系の神経伝達物質はアクセル系が過剰になった時に過剰に分泌されることが多いです。
極端な例だと、人前に立って緊張とかすると心拍数が上がります。
この時、身体はノルアドレナリンがドバドバ出ている状態ですが、身体は安全の為にセロトニンを分泌して落ち着こうします。
このようなことが頭の中でも起きていると思っていただければ(;^ω^)
ストレスに対する耐性をセロトニンでカバーしている状態ですね。
ノルアドレナリンやセロトニンは身体の中で作られますが、無尽蔵にあるわけではありません。
過剰に分泌を続ければいつか枯渇してしまいます。
ストレスの流れとして、
人間関係や仕事のストレス(ノルアドレナリンどばどば)
➡ストレス軽減の為にセロトニン分泌
➡長期こんな感じなので、ノルアドレナリンもセロトニンも足りなくなってくる
➡うつになる
流れ的にはこんな感じかと思います。
きっと私の頭も最近はノルアドレナリンとセロトニンどばどば使ってるんでしょうね~( ゚Д゚)
うつにならないように気を付けます。
SSRIとSNRIの使い分け
冒頭でお話したSSRIとSNRIですが、使い分けはうつの症状によって異なります。
頭の中のセロトニン量とかを確認出来れば手っ取り早いのですが、そういうわけにもいかないので、症状に応じて使い分けているのが現状です。
うつの症状がパニックや精神的な不安、落ち着きのなさなどが目立つ場合はセロトニン不足によるノルアドレナリン過剰な状態と推測。
なので、SSRIでセロトニンを増やせれば自然とノルアドレナリンも抑えられるという算段です。
うつの症状が無気力ややる気が出ないようなタイプだと、セロトニンもノルアドレナリンも不足していることが考えられるので、SNRIを検討します。
大体はこんな感じのイメージで使われていることが多いです(‘Д’)
とはいえ、現場では手当たり次第に使ってることが多いです。
うちの近隣の精神科医の話ですが…(^o^;)
効くと思ってSSRI処方したら効かなくて、仕方なくSNRI使うことになったとか。
その逆とかも茶飯事です。
副作用で継続出来なかったとか、薬剤選択に関しては、色んな要因があるのでね…(^^;
副作用
副作用に関してはSSRIは消化管関連(吐き気や下痢、便秘)が多い印象です。
これはセロトニンの受容体の9割以上が脳以外(主に腸管)に存在している為と言われています。
セロトニンは消化管の運動の制御に使われる神経伝達物質でもある為、SSRIなどセロトニンを中心に増やす薬ではその副作用が比較出やすいです。
SNRIはセロトニンとノルアドレナリンを増やす作用なので、消化管と循環器関連の副作用が多い印象です。
セロトニンに関しては前述した形ですが、ノルアドレナリンにより動悸やふらつき等の副作用が比較的起きやすくなっています。
ちなみにセロトニンもノルアドレナリンも血液脳関門を通過しないので、増えた神経伝達物質が身体各所に作用するというよりも、薬が脳以外にも作用して副作用が起きてしまうという形となっています。
まとめ
- ドパミンは『モチベーション』、ノルアドレナリンは『やる気』、セロトニンは『精神安定』に影響
- ドパミンやノルアドレナリンがアクセル役でセロトニンはブレーキ役
- 女性のセロトニン量は男性のセロトニン量の2/3
- ストレスに反応してノルアドレナリンやセロトニンが分泌される
- SSRIはパニックや精神的な不安、落ち着きのなさのうつ症状向き
- SNRIは無気力ややる気が出ないようなタイプ
- 副作用に関してはSSRIは消化管関連、SNRIは消化管と循環器関連が多い
- セロトニンもノルアドレナリンも血液脳関門を通過しない
最後に
うつの症状が出始める前に対処出来れば良いんですけど、それが出来れば苦労はしないんですよね~(;^ω^)
だだ、可能であればうつ症状が出始める前に原因からドロン出来ればと思います。
抗うつ薬で混乱する方の参考になれば幸いです。
ではでは。