【うつ病】抗うつ薬の使い分け 三環系、四環系、SSRI、SNRI、NaSSA、SRIM

医療系
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本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。

ここでは抗うつ薬の三環系、四環系、SSRI、SNRI、NaSSA、SRIMの使い分けをまとめています。

私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。

 

先にまとめ:大まかな使い分け

モノアミンの症状

  • 抗うつ薬の効果は、モノアミン仮説よりも、BDNF増加による神経回復が有力
  • セロトニンの低下:不安や焦燥感。
  • ノルアドレナリンの低下:意欲や気力の低下。
  • ドパミンの低下:快楽の喪失に関係。

大まかな薬剤選択

  • 軽度うつには忍容性の面からSSRIやSNRI、NaSSAが推奨
  • 中~重度うつにはSSRIやSNRI、NaSSAの他、三環系や四環系も検討
  • 抗うつ薬の中で有効性と有用性に優れている薬剤は、エスシタロプラムとボルチキセチン
  • 増強療法にはアリピプラゾールを併用
  • 腎機能低下例にはSRIM(ボルチオキセチン)が使用しやすい

副作用の出やすさ

  • 副作用:SSRI・SNRI等<三環系・四環系
  • 抗ヒスタミン作用:TCA・四環系・ミルタザピン・トラゾドン
  • 抗コリン作用:TCA・四環系・フルボキサミン・パロキセチン
  • 抗ノルアドレナリン作用:TCA・四環系
  • セロトニン再取り込み阻害作用:SSRI・SNRI
  • ノルアドレナリン再取り込み阻害作用:SNRI・ノルトリプチリン・アモキサピン・マプロチリン

SSRI

  • 有効性:エスシタロプラム、パロキセチンが優位
  • 忍容性:エスシタロプラム、セルトラリンが優位
  • 脱落率の高さ:フルボキサミン
  • 抗コリン副作用、離脱症状が多い:パロキセチン
  • 全てのSSRIで眠気や傾眠の副作用報告あり
  • フルボキサミンは併用禁忌が多いく、ロゼレムとチザニジンも併用禁忌
  • パロキセチンとタモキシフェンの併用には注意
  • エスタシロプタムは薬物相互作用が殆どない為、他剤併用しやすい。
  • 腎機能低下例に対しては、フルボキサミンとセルトラリンが通常量で使用可

SNRI及びNaSSA

  • 軽~重症うつに対して第一選択候補
  • SNRI及びNaSSA間の有効性:ミルタザピン、ベンラファキシンが優位
  • 忍容性の低さ、脱落率の高さ:サインバルタ、ベンラファキシン
  • ベンラファキシンは低用量ではSSRI作用を発揮し、大容量でSNRI作用を発揮する
  • ミルナシプランは、尿閉などの前立腺疾患には禁忌
  • ミルナシプランは新規抗うつ薬の中で最も抗ヒスタミン作用が強い
  • MAO阻害剤とは併用禁忌(MAO阻害剤服用後は14日間以上休薬すること)
  • サインバルタやベンラファキシンは粉砕等不可
  • 腎機能低下例に対しては全ての薬剤で減量等の措置が必要

SRIM

  • セロトニン再取り込み阻害作用の他、セロトニン受容体調節作用を有する
  • 副作用は他の抗うつ薬に比べて少ない
  • 現状、適応はうつ病・うつ状態のみ
  • 腎機能低下例でも使用しやすい

抗うつ薬の流れ

三環系四環系は抗ヒスタミン作用の眠気や抗アドレナリン作用のめまい、起立性低血圧などや、抗コリン作用の口渇、便秘などが強いことが特徴です。

その為、副作用が多く、QOLの低下から服用継続が困難でした。

これらの問題を解決したのが、SSRI、SNRIやNaSSAという流れになっています。

 

脳由来神経栄養因子 (BDNF)

モノアミン仮説から、SSRIやSNRIなどの選択的にセロトニン及びノルアドレナリンを増加させる薬剤が開発されてきました。

しかし、抗うつ薬は投与後速やかにモノアミンを増加させるのに対して、うつ病の改善には数週間かかります。

そのため、モノアミン仮説のみでは抗うつ薬の作用を説明することができませんでした。

 

モノアミン仮説とは?
簡単に言うと、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンといったモノアミンのシナプス間隙における量の増減により、躁病やうつ病が発現するという考え方です。

 

近年の研究では、抗うつ薬によるモノアミン増加が脳由来神経栄養因子 (BDNF) を増加させることで、神経回復を促進させることが解明されています。

このBDNF増加による神経回復が、抗うつ薬の作用であると主に考えられています。

 

各モノアミンの症状

うつ病の症状は、各モノアミンとその脳投射部位に関係があるとされています。

  • セロトニンの低下:不安や焦燥感。
  • ノルアドレナリンの低下:意欲や気力の低下。
  • ドーパミンの低下:快楽の喪失に関係するもの。

このように考えられています。

 

臨床薬学的根拠は十分ではないですが、

  • SSRI:不安の強いうつ病の場合。
  • SNRI:意欲気力の低下が強いうつ病。

このような選択されることが多いです。

 

親和性や選択性

作用や親和性を-~5の6段階で評価したものです。

再取り込み阻害作用 受容体親和性
5-HT NA α₁ mACh H₁
三環系 アミトリプチリン 3 3 3 3 4
クロミプラミン 4 3 3 3 3
イミプラミン 3 3 3 3 3
ノルトリプチリン 2 4 3 2 3
トリミプラミン 1 2 3 3 5
アモキサピン 2 3 3 2 3
四環系 マプロチリン 1 4 3 2 4
SARI トラゾドン 2 3 2
SSRI フルボキサミン 4 2 1
パロキセチン 5 3 1 2
セルトラリン 4 2 2 1
エスシタロプラム 4
SNRI ミルナシプラン 2 2
デュロキセチン 4 4 1 1 1
ベンラファキシン 4 4
NaSSA ミルタザピン 1 2 2 4
SRIM ボルチオキセチン 4

 

2018年に報告された抗うつ薬2種類に関するメタ解析結果があります。

この結果から、日本で承認されている抗うつ薬の中で有効性と有用性に優れている薬剤は、エスシタロプラムとボルチオキセチンとなっています。

 

アクチベーション症候群

各抗うつ薬とモノアミンの影響は、効果および副作用を把握する上で重要となってきます。

軽症の抗うつの薬剤選択については、忍容性の面からはSSRIやSNRI、NASSAが推奨されています。

しかし、アクチベーション症候群などの副作用に注意が必要です。

 

アクチベーション症候群とは?
抗うつ薬の服用初期や増量時に焦燥感や不安の増大衝動性のアカシジアが起こる副作用です。

 

アクチベーション症候群は比較的鎮静作用の少ないSSRIやSNRIで起こりやすいため注意が必要とされています。

 

中等症や重症うつ病に関しては、軽症に比べてより重篤で医療介入の緊急性が高い患者が当てはまります。

薬物療法として第一選択は、SSRIやSNRI、NASSAなどの新規抗うつ薬だけでなく三環系(TCA)も選択肢に入ります。

 

三環系は致死量が新規抗うつ薬に比べ少量であり、希死念慮の強い患者に対して使用する場合には十分な服薬管理が必要となります。

抗うつ薬の治療の原則として、十分量を十分期間(4週間程度)継続して、服用した後に評価することが重要です。

服薬継続後には、ほとんど反応がない場合は無効、一部の抑うつ症状に改善が見られるがそれ以上の改善がない場合は部分反応と評価します。

 

増強療法にはアリピプラゾール

抗うつ薬単剤を主剤とし、抗うつ薬以外の薬剤を併用することを増強療法といいます。

日本で適用がある薬剤はアリピプラゾールのみとなっています。

 

SSRIまたはSNRIなどによる適切な治療を行っても十分な効果が認められない場合に限り、本剤を併用して投与することとされています。

日本うつ病学会のガイドラインでは炭酸リチウムやクエチアピン、オランザピンが適用外として紹介されています

 

抗うつ薬の特徴的な副作用

薬理作用ごとの副作用 初期から起こる副作用 服用継続時の副作用 注意すべき薬剤
抗ヒスタミン 眠気・浮動性めまい・倦怠感 食欲増進・体重増加 TCA・四環系
ミルタザピン
トラゾドン
抗コリン 口喝・便秘・排尿困難・眠気
浮動性めまい
認知障害
せん妄リスク
TCA・四環系
フルボキサミン
パロキセチン
抗ノルアドレナリン 浮動性めまい・起立性低血圧 TCA・四環系
セロトニン再取り込み阻害 消化器症状(悪心・嘔吐、下痢等)
アクチベーション症候群
SSRI・SNRI
ノルアドレナリン再取り込み阻害 尿閉・血圧上昇・頻脈・頭痛 SNRI
ノルトリプチリン
アモキサピン
マプロチリン

 

各薬剤の薬理作用ごとに主な副作用が異なります。

薬効よりも副作用を重視して薬剤選択を行う場合は、注意すべき薬剤以外を選択することとなります。

 

抗ヒスタミン

抗ヒスタミン作用を有する抗うつ薬は、服用初期の副作用として眠気や浮動性のめまい、倦怠感が発現しやすいです。

 

服用継続によって、食欲増進な体重増加が問題となることもあります。

抗ヒスタミン作用の強い抗うつ薬としては三環系や四環系があります。

 

NASSAであるミルタザピンも抗ヒスタミン作用があるため注意が必要です。

SARIのトラゾドンも、抗ヒスタミン作用による眠気が強く適用外であるが不眠治療を目的に使用されることもあります。

 

抗コリン

抗コリン作用を持つ抗うつ薬は、服用初期の副作用として、口渇、便秘、排尿困難、眠気、浮動性のめまいが発現しやすいです。

服用継続によって認知障害やせん妄のリスク上昇が問題となります。

 

抗コリン作用の強い薬剤として三環系や四環系があります

SSRIであるフルボキサミンおよび パロキセチンも抗コリン作用を有するため注意が必要です。

 

抗ノルアドレナリン

抗ノルアドレナリン作用を持つ薬としては 、三環系や四環系がありますが、こちらも浮動性のめまいや起立性低血圧に注意が必要です。

 

セロトニン再取り込み阻害

セロトニン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬は、服用初期に消化器症状やアクチベーション症候群が発現しやすいです。

 

重篤な副作用としては、セロトニン症候群を引き起こすことがあります。

セロトニン症候群とは?
セロトニン症候群は失見当識や焦燥感などの精神症状や、筋肉の硬直振戦などの神経筋症状及び発熱、下痢、発汗、頻脈、血圧変動などの自律神経症状が起きます。

 

消化器症状については服用継続により症状が消退することが多いため、服薬指導及び対症療法を行います。

 

抗うつ薬の併用やリチウムの併用により脳内のセロトニン濃度が著しく上昇することによって生じやすくなります。

セロトニン症候群が発現した場合には、原因薬剤を中止します。

 

ノルアドレナリン再取り込み阻害

ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する抗うつ薬は尿閉、血圧上昇、頻脈、頭痛などが発現しやすいです。

ノルアドレナリン再取り込み阻害作用は強い抗うつ薬としてSNRIや三環系であるノルトリプチリン、アモキサン、四環系抗うつ薬のマプロチリンなどがあります。

 

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中止後症候群・離脱症状

抗うつ薬を1ヶ月以上継続服用後に中止、もしくは著しい減量した場合に悪心、嘔吐、疲労感、頭痛、不安、焦燥感、アカシジア、異常知覚、耳鳴りなどの症状が発現することがあります。

 

半減期が短く、セロトニン再取り込み阻害作用のある薬剤ほど起こりやすいとされています。

その為、パロキセチンは最も起こりやすい薬剤として知られています。

 

抗うつ薬を中止する場合には徐々に減量を行います。

 

患者が自己中断しないように、丁寧な服薬指導を行いアドヒアランス向上に努めることが重要となっています。

 

SSRIの使い分け

再取り込み阻害作用 受容体親和性
5-HT NA α₁ mACh H₁
SSRI フルボキサミン 4 2 1
パロキセチン 5 3 1 2
セルトラリン 4 2 2 1
エスシタロプラム 4

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

  • フルボキサミン(ルボックス等)
  • パロキセチン(パキシル)
  • セルトラリン(ジェイゾロフト)
  • エスシタロプラム(レクサプロ)

 

SSRI フルボキサミン
(ルボックス等)
パロキセチン
(パキシル)
パロキセチン
(パキシルCR)
セルトラリン
(ジェイゾロフト)
エスシタロプラム
(レクサプロ)
効能・効果 ①うつ病・うつ状態
②強迫性障害
③社会不安障害
①うつ病・うつ状態
②強迫性障害
③社会不安障害
④パニック障害
⑤外傷後ストレス障害
①うつ病・うつ状態 ①うつ病・うつ状態
②パニック障害
③外傷後ストレス障害
①うつ病・うつ状態
②社会不安障害
1日の投与回数 2回 1回夕食後 1回夕食後 1回 1回夕食後
併用禁忌 ・セレギリン塩酸塩
・ラサギリンメシル酸塩
・サフィナミドメシル酸塩
・ピモジド
・チザニジン
・ラメルテオン
・セレギリン塩酸塩
・ピモジド
・セレギリン塩酸塩
・ピモジド
・セレギリン塩酸塩
・ラサギリンメシル酸塩
・サフィナミドメシル酸塩
・ピモジド
・セレギリン塩酸塩
・ラサギリンメシル酸塩
・サフィナミドメシル酸塩
・ピモジド
代謝酵素 CYP2D6 CYP2D6 CYP2C19,2C9,2B6,3A4 CYP2C19,2D6,3A4
代謝酵素阻害作用 CYP1A2,2C19 CYP2D6
Tmax 3.5 5.05 10 6.7 CYP2C19EM:3.0
CYP2C19EM:6.4
半減期 11.84 14.35 13.42 24.1 CYP2C19EM:37.7
CYP2C19EM:57.8

 

SSRIの使い分けに関しては、すべてにうつの適応が通っていますが、パニック障害などに関しては通っているものと通っていないものがあるため注意が必要です。

SSRIの主作用は、セロトニン再取り込み阻害作用ですが、パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリンは弱いノルアドレナリン再取り込み阻害作用があり、セルトラリンはさらに弱いドパミン再取り込み作用阻害を持ちます。

 

SSRI間で有効性に差はないが…

SSRIの薬剤間でうつ病に対する有効性の程度に臨床的有意差はないとされています。

ただ、うつ病治療ガイドラインにおいては臨床有意差はないという形ですが、2018年に報告されたメタ解析の結果では、エスシタロプラム、パロキセチンは有効性が他の抗うつ薬より優れているという評価でした。

 

エスシタロプラム、セルトラリンは忍容性が他の抗うつ薬より優れていることで有名です。

一方で、フルボキサミンは他の抗うつ薬より脱落率が高かった結果でした。

 

副作用に関しては、パロキセチンは他のSSRIと比較して抗コリン作用が強く便秘を生じることもあるようです。

 

  • 有効性:エスシタロプラム、パロキセチンが優位
  • 忍容性:エスシタロプラム、セルトラリンが優位
  • 脱落率の高さ:フルボキサミン
  • 抗コリン副作用、離脱症状が多い:パロキセチン

 

運転等はさせないこと

全てのSSRIで眠気や傾眠の副作用が報告されています。

自動車の運転等危険を伴う機械操作に従事させないように注意することと添付文書上に記載されています。

 

SSRIは三環系と比較して心毒性は少ないとされていますが、エスシタロプラムはQT延長のある患者や先天性QT延長症候群に対しては禁忌となっています。

フルボキサミンは併用禁忌が多い

フルボキサミンは CYP1A2、2C19の阻害作用が強いため、抗てんかん、抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系抗精神病薬、ロピニロールやメキシレチン、シルデナフィルは併用注意となっています。

中には併用禁忌の薬剤もあるため注意が必要です。

 

併用禁忌はロゼレムチザニジンになっていますので注意が必要です。

 

むかたけ
むかたけ

ロゼレムやチザニジンは使用頻度も多い印象ですので、フルボキサミン服用時には特に併用薬チェックはした方が良いでしょう。

 

パロキセチンはCYP2D6の阻害作用が強いです。

また抗精神病薬、抗うつ薬や不整脈薬、β遮断薬、アトモキセチンは併用注意となっています。

パロキセチンとタモキシフェンを併用すると、タモキシフェンの活性代謝物の血中濃度が減少し、乳がん治療に影響を与える可能性があるため併用注意となっています。

 

セルトラリンはCYP2D6を中程度に阻害しますが、パロキセチンと比較すると臨床的影響は少ないと言われています。

 

エスシタロプラムは阻害作用ほとんどもちません。

一応CYP2C19で代謝されますが、遺伝的に2C19の活性が低い患者では血中濃度が上昇し 、QT 延長リスクが高まるため10㎎を上限量とするように添付文書に記載があります。

 

  • フルボキサミンは併用禁忌が多く、ロゼレムとチザニジンも併用禁忌
  • パロキセチンとタモキシフェンの併用には注意
  • エスシタロプタムは薬物相互作用が殆どない為、他剤併用しやすい。

 

SNRI、NASSAの使い分け

再取り込み阻害作用 受容体親和性
5-HT NA α₁ mACh H₁
SNRI ミルナシプラン 2 2
デュロキセチン 4 4 1 1 1
ベンラファキシン 4 4
NaSSA ミルタザピン 1 2 2 4

 

SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再吸収阻害)

  • ミルナシプラン(トレドミン)
  • デュロキセチン(サインバルタ)
  • ベンラファキシン(イフェクサー)

NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)

  • ミルタザピン(リフレックス等)

 

SNRI及びNaSSA ミルナシプラン
(トレドミン)
デュロキセチン
(サインバルタ)
ベンラファキシン
(イフェクサーSR)
ミルタザピン
(リフレックス等)
効能・効果 うつ病・うつ状態 ①うつ病・うつ状態
②下記疾患に伴う疼痛:
糖尿病性神経障害
線維筋痛症
慢性腰痛症
変形性関節症
うつ病・うつ状態 うつ病・うつ状態
1日の投与回数 2~3回 1回朝食後 1回 1回就寝前
併用禁忌 ・セレギリン塩酸塩
・ラサギリンメシル酸塩
・サフィナミドメシル酸塩
代謝酵素
(主に腎排泄)
CYP1A2、2D6 CYP2D6、3A4
(活性代謝物は腎排泄)
CYP2D6、1A2、3A4
代謝酵素阻害作用 CYP2D6
Tmax 2.6 5.8 6 1.1
半減期 7.9 17.26 7.6 32.7

 

全てのSNRI及びNASSAがうつ病・うつ状態に適応を有しており、サインバルタのみ神経障害性疼痛に対して適応を有しています。

 

NASSAも抗コリン作用および抗アドレナリン作用は少ないですが、抗ヒスタミン作用が強いため傾眠や鎮静、体重増加などの副作用が出現することがあります。

しかし、NASSAの抗ヒスタミン作用は焦燥感の強いうつ病や不眠症に対して有効である場合もあります。

 

うつ病治療ガイドラインでは、軽症うつ病および中等症重症うつ病の薬物療法としてSNRI及びNASSAを含む新規うつ薬が第一選択候補として提示されています。

 

SSRI及びNASSA間で有効性に差はないが…

SSRI及びNASSAの薬の間でうつ病に対する有効性に臨床的有意差はないとされています。

2018年に報告された抗うつ薬21種類に関するメタ解析結果では、SNRI及びNASSAの中でミルタザピン、ベンラファキシンは、他の抗うつ薬よりも優れているという評価でした。

ただ、サインバルタ、ベンラファキシンは脱落率が高く、忍容性が低かったと報告されています。

 

  • SNRI及びNASSA間の有効性:ミルタザピン、ベンラファキシンが優位
  • 忍容性の低さ、脱落率の高さ:サインバルタ、ベンラファキシン

 

ベンラファキシンの特徴

ベンラファキシンのノルアドレナリントランスポーター占有率は、用量依存的に増加します。

その為、低用量ではSSRI作用を発揮し、大容量でSNRI作用を発揮することが特徴です。

 

うつ病発症初期の抑うつ不安に対しては、低用量でSSRI作用を期待し、集中力や意欲低下が社会復帰を妨げている場合には増量して、SNRI作用を目的とするなどの使用方法も可能です。

 

  • 低用量(SSRI効果):うつ病発症初期の抑うつ不安に
  • 高用量(SNRI効果):集中力や意欲低下に

 

SNRIの副作用

SNRIはSSRIと同様に、抗コリン作用や抗アドレナリン作用、抗ヒスタミン作用が少ないとされています。

セロトニン作用による服用初期の悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状はありますが、SSRIより頻度は少めです。

アクチベーション症候群やセロトニン症候群はSSRIと同様のリスクと考えられています。

 

SNRIに特徴的な副作用として、ノルアドレナリン作用による血圧上昇、頻脈、頭痛、排尿障害などがあります。

 

特にミルナシプランは、尿閉などの前立腺疾患などのある患者に対しては症状を悪化させる可能性があるため禁忌となっています。

 

NaSSAの副作用

NaSSAは新規抗うつ薬の中で最も抗ヒスタミン作用が強いことが特徴です。

 

眠気、鎮静等の副作用発現頻度が高いSSRIやSNRIで見られるセロトニン作用による消化器症状は、5-HT₃受容体遮断作用により抑えられています。

その為、発現頻度は比較的少ないとされています。

 

また5-HT₂C遮断作用による食欲亢進から、体重増加などの副作用も起こるため長期服用時に注意が必要です

 

SRIM

再取り込み阻害作用 受容体親和性
5-HT NA α₁ mACh H₁
SRIM ボルチオキセチン 4

 

SRIM(セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節薬)

  • ボルチオキセチン(トリンテリックス)

 

SSRI、SNRI、NaSSAにも属さないお薬となっていて、2019年に承認、販売された比較的新しい製剤です。

一番の特徴は、セロトニン再取り込み阻害作用の他、セロトニン受容体調節作用を有することです。

 

5-HT₃、5-HT₇及び 5-HT₁D受容体アンタゴニスト作用、5-HT₁B受容体部分アゴニスト作用、5-HT₁A受容体アゴニスト作用を併せ持ち、セロトニン受容体に関わる情動のバランスを保ちます。

 

セロトニン受容体の調節を図る作用がある為、SSRIなどよりも副作用が出にくいという特徴もあります。

現在は、うつ病・うつ状態にのみ適応があります。

 

代謝

ミルナシプランはCYPが関与せず、未変化体もしくはグルクロン酸抱合体として尿中に排泄されます。

その為、相互作用の少ない抗うつ薬とされています。

 

サインバルタはCYP2D6阻害作用により抗うつ薬、抗精神病薬、抗不整脈薬の血中濃度を上昇させるため併用注意となっています。

 

SNRIはノルアドレナリン再取り込み阻害作用により、アドレナリンやノルアドレナリンなどの薬剤の心血管作用を増強することがあるので併用注意となっています。

MAO阻害薬服用時には、神経外アミン総量が増加するためSNRI及びNASSAは併用禁忌となっています。

MAO阻害薬服用後は、少なくても14日以上は間隔をおく必要があります。

 

腎機能低下時

三環系、四環系、SARIは使用しやすい

三環系と四環系、SARI(トラゾドン)に関しては、基本的には腎機能正常者と同じ用量で使用が可能です。

但し、ドスレピン塩酸塩はクレアチニンクリアランスが30未満では慎重投与となっています。

 

SSRIではフルボキサミンとセルトラリン

SSRIの中では、フルボキサミンとセルトラリンが腎機能正常者と同じように使用可能です。

 

エスシタロプラムはクレアチニンクリアランスが10以上までは腎機能正常者と同じように使用可能ですが、それ以下の場合は減量が必要となり1日1回10mgまでです。

パロキセチンも腎機能正常者と同じように使用できますが、原因不明の血中濃度上昇の報告がある為、注意が必要です。

 

SNRI及びNaSSAは減量

SNRI及びNaSSAでは、すべての薬剤で減量などの措置が必要になります。

サインバルタはクレアチニンクリアランスが30未満で禁忌となっています。

ベンラファキシンもクレアチニンクリアランスが10未満で禁忌です。

 

NaSSAのミルタザピンは、軽度腎機能低下例では通常量での使用が可能ですが、中等度低下(クレアチニンクリアランスが約50未満)では、2/3に減量する必要があります。

クレアチニンクリアランスが10未満の低下例では、1/2の量に減量して使用します。

 

SRIMは減量の必要なし

ボルチオキセチンは特に制限はなく、腎機能正常者と同じように使用可能です。

 

製剤上の注意

サインバルタは胃酸で失活することがあるため、 カプセル内の顆粒に腸溶性がコーティングされている。

その為、カプセルの内容物を粉砕すると薬効示せない可能性があります。

 

ベンラファキシンはカプセル内の顆粒に放出制御膜のコーティングが施されてします。

徐放性カプセル製剤となっているので、カプセル内容物を粉砕すると血中濃度が著しく上昇し副作用発現リスクが高まる可能性があるので、調剤時には注意が必要です。

 

まとめ:大まかな使い分け

モノアミンの症状

  • 抗うつ薬の効果は、モノアミン仮説よりも、BDNF増加による神経回復が有力
  • セロトニンの低下:不安や焦燥感。
  • ノルアドレナリンの低下:意欲や気力の低下。
  • ドパミンの低下:快楽の喪失に関係。

大まかな薬剤選択

  • 軽度うつには忍容性の面からSSRIやSNRI、NaSSAが推奨
  • 中~重度うつにはSSRIやSNRI、NaSSAの他、三環系や四環系も検討
  • 抗うつ薬の中で有効性と有用性に優れている薬剤は、エスシタロプラムとボルチキセチン
  • 増強療法にはアリピプラゾールを併用
  • 腎機能低下例にはSRIM(ボルチオキセチン)が使用しやすい

副作用の出やすさ

  • 副作用:SSRI・SNRI等<三環系・四環系
  • 抗ヒスタミン作用:TCA・四環系・ミルタザピン・トラゾドン
  • 抗コリン作用:TCA・四環系・フルボキサミン・パロキセチン
  • 抗ノルアドレナリン作用:TCA・四環系
  • セロトニン再取り込み阻害作用:SSRI・SNRI
  • ノルアドレナリン再取り込み阻害作用:SNRI・ノルトリプチリン・アモキサピン・マプロチリン

SSRI

  • 有効性:エスシタロプラム、パロキセチンが優位
  • 忍容性:エスシタロプラム、セルトラリンが優位
  • 脱落率の高さ:フルボキサミン
  • 抗コリン副作用、離脱症状が多い:パロキセチン
  • 全てのSSRIで眠気や傾眠の副作用報告あり
  • フルボキサミンは併用禁忌が多いく、ロゼレムとチザニジンも併用禁忌
  • パロキセチンとタモキシフェンの併用には注意
  • エスシタロプタムは薬物相互作用が殆どない為、他剤併用しやすい。
  • 腎機能低下例に対しては、フルボキサミンとセルトラリンが通常量で使用可

SNRI及びNaSSA

  • 軽~重症うつに対して第一選択候補
  • SNRI及びNaSSA間の有効性:ミルタザピン、ベンラファキシンが優位
  • 忍容性の低さ、脱落率の高さ:サインバルタ、ベンラファキシン
  • ベンラファキシンは低用量ではSSRI作用を発揮し、大容量でSNRI作用を発揮する
  • ミルナシプランは、尿閉などの前立腺疾患には禁忌
  • ミルナシプランは新規抗うつ薬の中で最も抗ヒスタミン作用が強い
  • MAO阻害剤とは併用禁忌(MAO阻害剤服用後は14日間以上休薬すること)
  • サインバルタやベンラファキシンは粉砕等不可
  • 腎機能低下例に対しては全ての薬剤で減量等の措置が必要

SRIM

  • セロトニン再取り込み阻害作用の他、セロトニン受容体調節作用を有する
  • 副作用は他の抗うつ薬に比べて少ない
  • 現状、適応はうつ病・うつ状態のみ
  • 腎機能低下例でも使用しやすい

最後に

大まかな使い分けは以上となります。

医療業務の参考になれば幸いです。

ではでは。

参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)

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