本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは消化性潰瘍治療薬のガスターなどのH₂B、タケプロンなどのPPIやPーCAB(タケキャブ)の使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
- いずれの潰瘍においてもPPIが第一選択
- 酸分泌抑制効果はH₂B<PPI
- H₂Bの酸分泌抑制効果は、日中よりも夜間の酸分泌に効きやすい
- H₂Bの中で夜間酸分泌抑制率が最も高いのはアルタット
- H₂Bの中でラフチジンだけが肝代謝
- H₂BもPPIも機能性ディスペプシアには適応外
- 小児適応がある潰瘍治療薬はアルタットとネキシウム
- オメプラゾールには薬物性潰瘍の再発抑制の適応はなし
- 酸分泌抑制はPPI≦PーCABだが、潰瘍治癒率に差はない
- ピロリ除菌はボノプラザンが推奨
- PPIやPーCABは全て肝代謝
- 腎機能低下例に対しては、H₂BよりもPPIやPーCABの方が使いやすい
PPIとH₂B
消化性潰瘍治療薬は攻撃因子抑制薬と防御因子抑制薬に大別されます。
ここでは攻撃因子抑制薬の使い分けを記載します。
攻撃因子抑制薬は大きく、H₂BとPPIに分けられます。
PPIはH₂Bを上回る胃酸分泌抑制効果があることで有名です。
H₂Bは胃粘膜壁細胞のH₂受容体を遮断する事で酸分泌を抑制します。
PPIは酸分泌の最終段階のH⁺/K⁺ーATPace(プロトンポンプ)を阻害することで、最も効率的に胃酸分泌を抑制します。
H₂Bは腎排泄なのに対し、PPIは肝代謝なので、腎機能低下例には用量調整が不要な点はメリットとしてあげられます。
水道の数ある元栓の1つを止めるのがH₂B。
水道の出口の蛇口を止めてしまうのがPPIなイメージです。
各消化器ガイドラインでも、出血性胃・十二指腸潰瘍においてはPPIの投与が強く推奨されています。
PPIとH₂Bでは、PPIの方が再出血率は低かったものの、死亡率に関しては差はないとされています。
ピロリ除菌においては、ボノプラザン、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用(ボノサップ)が強く推奨されています。
ピロリ除菌以外の胃潰瘍や十二指腸でも、治療の第一選択はPPIです。
PPIが使えない場合にH₂Bとなっています。
薬物性潰瘍の第一選択はPPI
薬物性の潰瘍は、NSAIDs潰瘍と低用量アスピリン潰瘍に大きく分けられます。
NSAIDs潰瘍の場合はまずはNSAIDsの中止を検討し、中止できない場合にはPPIが第一選択となります。
低用量アスピリンの場合でもPPIが第一選択となりますが、H₂Bには低用量アスピリン潰瘍の再発抑制の適応がありません。
なので、いずれの潰瘍でもPPIが第一選択となります。
ちなみに消化性潰瘍の再発率は投与中止後で60~90%、服用継続中でも10~20%となっています。
服薬コンプライアンスで再発が左右される印象でもあるため、1日1回で済むタイプのPPIの方がアドヒアランス上でも良いですね。
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H₂Bの使い分け
H₂Bは
- シメチジン(タガメット)
- ラニチジン(ザンタック)
- ファモチジン(ガスター)
- ロキサチジン(アルタット)
- ニザチジン(アシノン)
- ラフチジン(プロテカジン)
が承認されています。
H₂Bの酸分泌抑制効果は、日中よりも夜間の酸分泌に効きやすいとされています。
H₂Bは腎排泄型の薬が多いが、肝代謝酵素の遺伝子多型による個体差はみられません。
分1製剤や分2製剤で違いはありますが、用法の違いによる薬理学的作用に大きな差はありません。
ピロリ除菌や薬物性潰瘍においては、PPIの方が推奨されているため、PPIが使えない場合にH₂Bを使用する位置付けとなっています。
H₂Bには低用量アスピリン潰瘍による再発予防の適応がないので御注意ください。
その他、H₂B毎に適応の有無も異なりますのでご注意下さい。
H₂BもPPIも機能性ディスペプシアには適応外
『機能性消化管疾患診療ガイドライン2014』での、機能性ディスペプシアに関しては、酸分泌抑制薬の使用が推奨されているものの、H₂BとPPIはいずれも保険適用外で、H₂BとPPIの効果に有意差は示されていないので、こちらも注意が必要です。
H₂Bの中ではアルタットが最も夜間酸分泌抑制率が高い
夜間の酸分泌抑制率では、H₂Bの全てで70%以上と高い割合を占めています。
なかでもロキサチジン(アルタット)は95.5%と最も高い抑制率と報告されています。
ちなみにH₂Bの中で唯一小児適応があるのもアルタットとなっています。
ラフチジン(プロテカジン)以外は24時間酸分泌抑制率よりも夜間酸分泌抑制率の方が高いです。
ラフチジンは1日2回の服用で、日中と夜間の酸分泌抑制率が同程度であった報告があります。
シメチジン | ラニチジン | ファモチジン | ロキサチジン | ニザチジン | ラフチジン | |
胃・十二指腸潰瘍 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
吻合部潰瘍 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | 〇 |
ゾリンジャー・エリソン症候群 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | ‐ |
逆流性食道炎 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
上部消化管出血 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ | ‐ | ‐ |
急性・慢性胃炎の急性増悪期 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
麻酔前投薬 | ‐ | 〇 | ‐ | 〇 | ‐ | 〇 |
小児適応 | ‐ | ‐ | ‐ | 〇 | ‐ | ‐ |
H₂B間で潰瘍治癒率や副作用に差はない
H₂Bの間で消化性潰瘍の治癒率に差はないと考えられています。
副作用も5%を超える頻度で生じる症状は報告されていません。
H₂B間で副作用に大きな差はありませんが、重篤な副作用に血球減少やTENなどがありますので、注意が必要です。
H₂Bの中でラフチジンだけが肝代謝
H₂Bのほとんどは腎排泄なので、腎機能低下時には用量調節が必要になります。
しかし、ラフチジンだけは肝代謝となっています。
肝代謝のラフチジンは腎機能低下例に対しても通常量で使用できますが、透析患者には半量程度にするなど、調節は必要です。
その他のH₂Bは軽度の腎機能低下でも減量が必要になりますので、注意が必要です。
なお、透析に関しては禁忌ではないので、減量すれば使用は可能です。
シメチジン、ラフチジン以外は週3回の服用で、透析日には透析後(HD後)に服用します。
シメチジン(タガメット)は腎排泄ではありますが、CYP3A4や2D6の阻害作用がありますので、薬物相互作用に注意が必要です。
PPIやPーCABの使い分け
PーCABはPPIと異なり、胃酸による活性体への変換が必要ない製剤となっています。
PPIは保険適用上で胃潰瘍などで8週間、十二指腸潰瘍で6週間の投与制限があるので注意
PPIの胃酸分泌抑制率はH₂B以上
各種潰瘍では、H₂BよりもPPIが第一選択となっています。
第一世代のPPIは
- オメプラゾール(オメプラール)
- ランソプラゾール(タケプロン)
- ラベプラゾール(パリエット)
第二世代は、オメプラゾールの光学異性体のエメプラゾール(ネキシウム)です。
最も新しいのは、PーCABであるボノプラザン(タケキャブ)となっています。
PーCABはPPIの一種
PーCABであるボノプラザンは、PPIの一種ではありますが、カリウムイオンに競合してプロトンポンプを可逆的に阻害することで作用を発揮する点がPPIと異なります。
既存のPPIとは作用時間も長いことから、他の薬剤とは区別してPーCABと呼ばれています。
ちなみにPPIでは適応の疾患でも、PーCABでは適応がない疾患もありますので、ご注意下さい。
小児適応はエメプラゾールのみだったり、オメプラゾールには薬物性潰瘍の再発抑制の適応がないことなどですね。
基本的には、胃潰瘍などで8週間、十二指腸潰瘍で6週間の投与制限に関してはPPIと同様です
この期間については、80~90%以上の治癒が得られる投与期間を根拠にしています。
オメプラゾール | ランソプラゾール | ラベプラゾール | エメプラゾール | ボノプラザン | |
胃・十二指腸潰瘍 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
吻合部潰瘍 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ |
ゾリンジャー・エリソン症候群 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ |
逆流性食道炎 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
非びらん性胃食道逆流症 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ‐ |
薬物性潰瘍の再発抑制 | ‐ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
ピロリ除菌 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
小児適応 | ‐ | ‐ | ‐ | 〇 | ‐ |
ピロリ除菌にはPーCABが推奨
PPIやPーCABの間では、胃潰瘍や十二指腸の治癒率に差はないとされています。
ピロリ除菌に関しては、PPIよりも酸分泌抑制が強いボノプラザンが入っているボノサップが推奨されています。
これはボノプラザンの胃酸による活性体への変換が必要ない特性が理由です。
ピロリ除菌は7日間と除菌治療期間が限られています。
ボノプラザンであれば、特性上、治療初日から最大限効果を発揮するため、従来のPPIよりも高い除菌率となります。
副作用に関しては、PPIもPーCABも重篤な副作用として、アナフィラキシーショックやTENが認められているのは同じです。
ランソプラゾールとボノプラザンでの比較では、ボノプラザンの方が血清ガストリン値が高い傾向にあったと報告があります。
PPIやPーCABは全て肝代謝
相互作用では、PPIやPーCABは全て肝代謝となっているため、薬物相互作用に注意が必要です。
全ての薬剤でアタザナビルやリルピビリンとは併用禁忌になっています。
これは肝代謝酵素の問題ではなく、胃内pHが上昇することにより、薬剤の溶解性や吸収性が低下するためです。
胃内pHの変動による相互作用は、他の薬剤ではみられにくい相互作用のため、注意が必要です。
代謝酵素絡みでは、CYP2C19の寄与率が高いオメプラゾール、エメプラゾールでワルファリンやクロピドグレルとの相互作用に注意が必要です。
ボノプラザンはCYP3A4で代謝されるため、クラリスロマイシンなどの薬剤相互作用で注意が必要となります。
腎機能低下例に対しても通常量可
PPIやPーCABは腎機能低下例に対しても、腎機能正常者と同じように扱えます。
透析に関しても、腎機能正常者と同じ扱いな為、安心して使うことが可能です。
その為、腎機能低下例に対しては、H₂BよりもPPIやPーCABが優先して使用されます。
ただ、ボノプラザン(タケキャブ)に関しては、AUCが1.3~2.4倍上昇する報告がある為、注意が必要です。
まとめ:大まかな使い分け
- いずれの潰瘍においてもPPIが第一選択
- 酸分泌抑制効果はH₂B<PPI
- H₂Bの酸分泌抑制効果は、日中よりも夜間の酸分泌に効きやすい
- H₂Bの中で夜間酸分泌抑制率が最も高いのはアルタット
- H₂Bの中でラフチジンだけが肝代謝
- H₂BもPPIも機能性ディスペプシアには適応外
- 小児適応がある潰瘍治療薬はアルタットとネキシウム
- オメプラゾールには薬物性潰瘍の再発抑制の適応はなし
- 酸分泌抑制はPPI≦PーCABだが、潰瘍治癒率に差はない
- ピロリ除菌はボノプラザンが推奨
- PPIやPーCABは全て肝代謝
- 腎機能低下例に対しては、H₂BよりもPPIやPーCABの方が使いやすい
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)