【片頭痛】片頭痛治療薬の使い分け エルゴタミンやトリプタン系

医療系
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本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。

ここでは片頭痛治療薬のエルゴタミン製剤、トリプタン系の使い分けをまとめています。

私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。

先にまとめ:大まかな使い分け

  • エルゴタミン製剤:前兆期に使う
  • トリプタン製剤:頭痛発作早期(発症より1時間くらいまで)に使う
  • 直接的な脳血管収縮は5HT₁Bで、間接的には5HT₁D。
  • スマトリプタンは5HT₁Bや5HT₁Dの選択性が高い。
  • 予防投与ではバルプロ酸はグレードA、ロメリジンはグレードB。
  • エルゴタミンの副作用で多いのは悪心嘔吐
  • トリプタン系はエルゴタミン製剤や他の5HT₁Bや5HT₁D受容体作動薬と併用禁忌。
  • トリプタン系や他のエルゴタミン製剤を服用する際は24時間以上間隔をあける
  • 一ヶ月あたりの使用頻度が10日を超えないように、外来でしっかり指導する
  • ナラトリプタンはトリプタン系のなかで最も半減期が長く忍容性も良好
  • エレトリプタン20㎎経口はスマトリプタン100㎎と同等
  • 導入には副作用が少ないエレトリプタンが向いている
  • 腎機能低下例にはスマトリプタン、エレトリプタン

使うタイミング

エルゴタミン製剤

  • エルゴタミン配合剤(クリアミン)

 

トリプタン製剤

  • スマトリプタン(イミグラン)
  • ゾルミトリプタン(ゾーミッグ)
  • エレトリプタン(レルパックス)
  • リザトリプタン(マクサルト)
  • ナラトリプタン(アマージ)

 

予防薬

  • ロメリジン(ミグシス)
  • バルプロ酸

 

各製剤によって使うタイミングが異なります。

  • エルゴタミン製剤:前兆期に使う
  • トリプタン製剤:頭痛発作早期(発症より1時間くらいまで)に使う

 

 

このようなタイミングでの使用が望ましいとされています。

 

前兆期にトリプタン系を使用しても支障はありませんが、無効である可能性もあるとされています。

 

トリプタン系の中でもスマトリプタンは5HT₁、特に5HT₁Bおよび5HT₁Dは受容体に対して選択性が高いです。

硬膜血管などの脳血管系に対して収縮作用を示しますが、末梢血管系に対してほとんど作用を示さないもしくは弱い作用しか示さないことが特徴です。

 

 

セロトニン受容体

セロトニンの受容体は5HT₁~5HT₇までの7種類の受容体があります。

脳血管の収縮は5HT₁受容体が大きく関わっています。

 

その中でも、特に5HT₁Bおよび5HT₁Dのサブタイプを介することが知られています。

 

直接的な脳血管収縮は5HT₁Bで、間接的には5HT₁Dが関係します。

脳血管を支配する三叉神経終末に存在する5HT₁Dが作動すると、血管拡張性神経ペプチドの放出抑制が起こり、脳血管の拡張を抑えてくれます。

 

発作予防薬

発作予防薬としては、ロメリジンバルプロ酸があります。

 

ロメリジン

ロメリジンは脳血管に選択的拡張作用があります

薬効発現には一か月以上を要しますので基本的には長期投与が前提となっています。

カルシウムチャネル遮断作用による脳血管収縮抑制作用を有し、前駆期に生じる脳血管収縮を抑えることで片頭痛の発症を阻止すると考えられています。

 

ロメリジンはガイドラインにおいて月に2回以上の発作がある片頭痛患者に、ロメリジン10㎎1日経口投与すると8週後には64%の患者で片頭痛発作の頻度程度の軽減が期待できるとされています。

有害事象はプラセボと同程度で安全な薬剤として片頭痛予防薬の第一選択薬の一つとして進められていると記載されています。

 

バルプロ酸

バルプロ酸は脳内でグルタミン酸脱炭酸酵素の活性化と、GABAアミノ基転移酵素阻害作用により、GABAレベルを増加させ神経細胞の興奮を抑制します。

日本でも2010年に片頭痛予防薬として保険適応となりました。

 

発作予防薬のバルプロ酸は、ガイドラインにおいて月に2回以上の頭痛発作がある偏頭痛患者にバルプロ酸を経口投与すると一か月あたりの発作回数を減少させることが期待できるとされています。

成人の場合、バルプロ酸ナトリウム400~600㎎1日の内服が進められると記載されています。

 

これらの文言は、ロメリジンの方はグレードBでバルプロ酸の方はグレードAとなっています。

 

その他の予防薬

海外ではフルナリジンが片頭痛予防薬として使用されていますが、日本では販売中止となっているため使用出来ません。

 

CGRPカルシトニン遺伝子関連ペプチドをターゲットとする抗体製剤も開発され、2021年にはガルカネズマブ(エムカルディ)、フレマネズマブ(アジョビ )、エレマヌブ(アイモビーグ)が予防の適応で承認されています。

欧米ではβ遮断薬、アミトリプチリンに並んで片頭痛予防薬の第一選択の一つとして記載されています。

 

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副作用

エルゴタミン

エルゴタミン製剤は副作用が多く、現在はクリアミンおよびジヒドロエルゴタミン以外販売中止となっています。

 

副作用の多くは、悪心嘔吐が多いです。

 

成人でも1日6㎎が限度で、週10㎎以上継続投与するとリバウンド現象により各種神経障害やエルゴタミン誘発性頭痛が出現することがあります。

 

エルゴタミン/カフェイン配合剤(クリアミン)は、痛みが中等度から重症になった頭痛には効果は少ないとされています。

トリプタン系で頻回に頭痛再燃が見られる患者には使用価値があるとされていますので、使用する患者が限定されます。

ちなみに妊娠授乳中の使用は禁忌であるため注意が必要です。

 

トリプタン系

トリプタン系の副作用では虚血性心疾患様症状が重大な副作用として挙げられています。

これは血管収縮作用に由来すると考えられていて、ナラトリプタン以外の薬ではてんかんの発作も重大な副作用に挙げられています。

 

てんかん症状の誘発については、トリプタン系の投与後にてんかん発作の既往歴のある患者や脳炎などの脳疾患のある患者、MAO阻害薬、三環系系抗うつ薬、選択的セロトニン取り込み阻害薬などの痙攣の閾値を低下させる薬を服用している患者において、てんかん発作の発現が報告されているためとされています。

 

予防薬

ロメリジンの重大な副作用として、抑うつ錐体外路症状があります。

日本人を対象としたバルプロ酸の使用実績調査での主な副作用は、傾眠、高アンモニア血症、浮動性めまい、肝機能障害、クレアチニンホスホキナーゼで増加、貧血などの報告があります。

 

禁忌

全てのトリプタン製剤に共通して併用禁忌なのは、エルゴタミン製剤他の5HT₁Bや5HT₁D受容体作動薬です。

 

エルゴタミン製剤は薬理学的相互作用により、重篤な血管攣縮が発現する危険性が高まる恐れがあるため禁忌とされています。

 

トリプタン製剤はMAOにより代謝されるため、MAO阻害剤と併用することで代謝が阻害されるため、エレトリプタン、ナラトリプタン以外は併用禁忌となっています。

また、エレトリプタンはリトナビル、リザトリプタンはプロプラノロールとの併用が禁忌となっています。

 

エルゴタミンはCYP3A4で代謝されるためリトナビルやエファビレンツ、 マクロライド系抗生物質アゾール系抗真菌薬、テラプレビルなどとの併用は禁忌となっています。

 

トリプタン系や他のエルゴタミン製剤を服用する際は24時間以上間隔をあけて服用するように添付文書に記載はされています。

ロメリジンは降圧剤との併用注意バルプロ酸ナトリウムはバルプロ酸の血中濃度が上昇するためカルバペネム系抗生物質との併用は禁忌となっています。

 

妊婦・授乳婦

妊婦授乳婦に関しては、発作は重度で治療が必要な場合には発作頓挫薬としてアセトアミノフェンを推奨しています。(グレード B)

 

授乳婦がトリプタン製剤を使用した場合には、スマトリプタンで使用後12時間、その他のトリプタンは24時間経過した後に授乳させることが望ましいと記載されています。

 

トリプタン製剤の安全性については市販後調査でスマトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタンの妊娠初期の仕様で胎児奇形発生の危険性を増加させなかったとも報告されています。

市販後調査以外ではスマトリプタンが妊娠中の使用について最も報告が多く、妊娠初期での使用が胎児奇形発生の危険性を増加させなかったと報告があります。

 

つまり、妊娠中にどうしても使いたい場合はスマトリプタンの使用が最もリスクが低いということになります。

 

エルゴタミン製剤は子宮収縮作用があり早産の危険性があるため添付文書上、 FDAの勧告では禁忌となっています。

 

予防薬

妊娠中の予防薬では胎児に対する危険性が最も高いのはバルプロ酸です。

妊娠可能年齢の女性患者に対する使用の場合は注意が必要です。

ロメリジンも妊娠初期は禁忌とされています。

 

妊娠中に予防薬が必要な場合には経験的にβ遮断薬なかでもプロプラノロールが選択肢として挙げられています。

 

効き目

薬物乱用頭痛の発症を防止する意味でも、一ヶ月あたりの使用頻度が10日を超えないように、外来でしっかり指導することが推奨されています。

 

薬剤名 特徴
スマトリプタン
(イミグラン)
・脂溶性低く中枢移行は低い
・即効性かつ強力ではあるが、吸収率は良くなく無反応例も多い
・点鼻や皮下注キット等あり
・妊婦への使用もリスクが低い
・腎機能低下例にも通常量使用可
ゾルミトリプタン
(ゾーミッグ)
・脂溶性で中枢移行が良く、効果が出やすい
・反面、ふらつき等の副作用が出やすい
・片頭痛のみならず群発頭痛にも有効
ナラトリプタン
(アマージ)
・最も半減期が長い効果の持続と忍容性も良好
・中枢移行性が良好な為、効果は優れている。
・反面、倦怠感等の副作用も出やすい
エレトリプタン
(レルパックス)
・中枢移行性は良く、効果はさほど強くはないが即効性に優れている。
・消失も早いため中枢性副作用は少ない
・腎機能低下例にも通常量使用可

 

第1世代のスマトリプタンは脂溶性が低く髄液移行が悪いため、第2世代のゾルミトリプタンなどが開発されました。

 

スマトリプタン注射剤は10分点鼻液は15分。錠剤は30分で効果が出る仕様です。

悪心や頚部硬直がある時はプリンペランやナウゼリンを併用しても良いです。

即効性かつ強力ですが吸収率が低く、無反応例が30%ほどあることが報告されています。

 

ゾルミトリプタンの作用時間は4時間~6時間以内と比較的短く、ナラトリプタンは作用時間が12時間~24時間と長くなっています。

 

ゾルミトリプタンは少量でも効果があることが特徴です。

脂溶性で中枢移行が良いため、眠気めまい全身倦怠感が出ることもあります。

スマトリプタンに反応しない患者の45%が本剤に反応したと報告があります。

片頭痛のみならず群発頭痛にも有効とされています。

 

ナラトリプタンはトリプタン系のなかで最も半減期が長い効果の持続と、再発抑制が認められ忍容性も良好であるから海外ではジェントルトリプタンとも呼ばれています。

脂溶性で中枢移行性は良好で、効果は優れているが全身の倦怠感が出やすいことが特徴です。

 

エレトリプタンは中枢移行性は良いが、消失も早いため中枢性副作用は少ないとされています。

エレトリプタン20㎎経口はスマトリプタン100㎎と同等と考えられています。

効果はそれほど強くない印象ですが、副作用が少なく即効性に優れています。

 

最初に用いるトリプタン系薬としては、比較的副作用の少ないエレトリプタンが使いやすいとされています。

発作が重度であれば、最初からリザトリプタンないしゾルミトリプタンを使うのも選択肢の一つです。

悪心嘔吐が強く経口剤を受け付けない患者ではスマトリプタン点鼻液や皮下注キットが選択肢となります。

 

 

ちなみにトリプタン系薬使用後24時間以内はエルゴタミン製剤は併用禁忌ですので、重ねての使用は出来ませんのでご注意下さい。

 

エルゴタミン製剤は悪心嘔吐の副作用は多く、成人でも6㎎1日が限度で週10㎎以上継続投与するとリバウンド現象により各種神経障害やエルゴタミン誘発性頭痛が出現することがあります。

SSRIはトリプタン系の作用を増強(セロトニン作用増強)するので併用には十分注意させる必要があります。

 

腎機能低下例

腎機能低下例への使用に関しては、薬剤ごとに使用可能かどうかは分かれます。

エレトリプタンやスマトリプタンは腎機能正常者と同じように使用可能です。

 

ゾルミトリプタンも腎機能正常者と同じように使用できますが、透析患者の場合ではAUCが増加しますので、頻回に使用する場合は減量も検討する必要があります。

リザトリプタンに関しては、腎機能正常者と同じように使用できるものの、透析患者への使用は禁忌となっています。

ナラトリプタンはクレアチニンクリアランスが30未満には禁忌扱いとなっています。

軽度腎機能障害でも、AUCや半減期が2倍以上に増加する報告がありますので、1日の総投与量を2.5mgまでにするなどの措置が必要となります。

 

  • スマトリプタン、エレトリプタン:通常量で問題なし
  • ゾルミトリプタン:通常量で問題ないが、透析患者には減量も検討
  • リザトリプタン:通常量で問題ないが、透析患者には禁忌
  • ナラトリプタン:軽度腎機能低下でも投与量を抑える。重度腎機能低下には禁忌

 

まとめ:大まかな使い分け

  • エルゴタミン製剤:前兆期に使う
  • トリプタン製剤:頭痛発作早期(発症より1時間くらいまで)に使う
  • 直接的な脳血管収縮は5HT₁Bで、間接的には5HT₁D。
  • スマトリプタンは5HT₁Bや5HT₁Dの選択性が高い。
  • 予防投与ではバルプロ酸はグレードA、ロメリジンはグレードB。
  • エルゴタミンの副作用で多いのは悪心嘔吐
  • トリプタン系はエルゴタミン製剤や他の5HT₁Bや5HT₁D受容体作動薬と併用禁忌。
  • トリプタン系や他のエルゴタミン製剤を服用する際は24時間以上間隔をあける
  • 一ヶ月あたりの使用頻度が10日を超えないように、外来でしっかり指導する
  • ナラトリプタンはトリプタン系のなかで最も半減期が長く忍容性も良好
  • エレトリプタン20㎎経口はスマトリプタン100㎎と同等
  • 導入には副作用が少ないエレトリプタンが向いている
  • 腎機能低下例にはスマトリプタン、エレトリプタン

最後に

大まかな使い分けは以上となります。

医療業務の参考になれば幸いです。

ではでは。

参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)

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