本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここではオレキシン受容体拮抗薬のベルソムラとデエビゴの使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
- オレキシン受容体の1型:抗不安作用、2型:睡眠や覚醒のリズム
- ベルソムラは選択性なし、デエビゴは2型選択性
- オレキシン受容体薬は依存性が極めて少ない
- ベルソムラは年齢による用量調節が必要
- 作用機序の面からも、ベルソムラは悪夢が出現しやすい
- 肝障害リスク:ベルソムラ<デエビゴ
- クラリスのようなCYP3A4代謝薬との併用は注意(ベルソムラは併用禁忌)
- 食事の影響を受けやすい
オレキシン受容体
ベルソムラ(スボレキサント)は2014年、デエビゴ(レンボレキサント)は2020年に発売されました。
これらはオレキシン受容体に作用しますがオレキシン受容体には1型と2型があります。
残念ながらまだ詳しいことはわかってはいませんが、2型の受容体の方が覚醒や睡眠に関わっているとされています。
覚醒睡眠リズムの調整や覚醒からノンレム睡眠への移行に対してより重要な役割を担っていることが示唆されています。
ちなみに1型は抗不安作用に関わっているとされています。
オレキシン受容体はベンゾジアゼピン受容体とは異なり、依存性が極めて少ないことが特徴です。
その為、向精神薬扱いではなく、処方日数の制限等もない長期に渡る不眠症治療に向いている薬剤でもあります。
薬剤名 | 半減期(hr) | 主なCYP | |
超短時間型 | ゾルピデム(マイスリー) | 2 | 3A4,2C9,1A2 |
トリアゾラム(ハルシオン) | 2~4 | 3A4 | |
ゾピクロン(アモバン) | 4 | 3A4 | |
エスゾピクロン(ルネスタ) | 5~6 | 3A4,2E1 | |
短時間 | エチゾラム(デパス) | 6 | 2C9,3A4 |
リルマザホン(リスミー) | 10 | 3A4 | |
ブロチゾラム(レンドルミン) | 7 | 3A4 | |
ロルメタゼパム(ロラメット等) | 10 | ‐ | |
中時間型 | エスタゾラム(ユーロジン) | 24 | 3A4 |
フルニトラゼパム(サイレース等) | 24 | ‐ | |
ニトラゼパム(ベンザリン等) | 28 | ‐ | |
長時間型 | クアゼパム(ドラール) | 36 | 2C9,3A4 |
フルラゼパム(ダルメート) | 65 | 3A4 | |
オレキシン受容体拮抗 | スボレキサント(ベルソムラ) | 10 | 3A |
レンボレキサント(デエビゴ) | 50 | 3A | |
メラトニン作動 | ラメルテオン(ロゼレム) | 1 | 1A2 |
今回はオレキシン受容体拮抗薬のお話です。
ベルソムラとデエビゴ
ベルソムラとデエビゴの受容体の結合性について検証した実験があります。
結果は、デエビゴが2型に対して強い親和性を持ち、ベルソムラでは受容体選択性がありません。
受容体への選択性がデエビゴの方が勝っている事もあり、デエビゴの方が使い勝手が良い印象です。
ベルソムラは年齢によって投与量を変えますが、デエビゴは年齢による容量調節が行われないことが特徴です。
なお、ベルソムラは吸湿性の関係で、一包化が出来ないお薬となっています。
その為、現場では受容体選択性による効果の鋭さ、副作用、年齢による用量調節の有無、一包化の可否など、総合的にはデエビゴの方が使い勝手が良いと感じています。
あくまで私の感想です。
スボレキサント (ベルソムラ) |
レンボレキサント (デエビゴ) |
|
効能・効果 | 不眠症 | |
CYP3A4を 強力に阻害する薬剤 |
併用禁忌 | 併用注意 |
重度の肝障害 | 慎重投与 | 禁忌 |
重度の腎障害 | ‐ | 慎重投与 |
食事の影響 | Tmax中央値が1時間延長 | Cmaxが23%低下 |
排泄経路 | 主に肝代謝 | |
一包化 | 不可 | 推奨ではないが可 |
代謝物の活性 | なし | あり |
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ベルソムラの悪夢
ベルソムラには悪夢の副作用が有名です。
夢のメカニズムに関しては、まだ不明な点が多いですが、レム睡眠時での記憶の整理時に起きるとされています。
デエビゴよりもベルソムラで悪夢が多いのは、ベルソムラにオレキシン受容体の選択性がないことが理由とされています。
ベルソムラは受容体選択性がない為、デエビゴよりも浅い眠り(レム睡眠)になりがちになります。
その為、デエビゴや他の睡眠導入剤と比べて夢を見る機会が増えてしまい、悪夢の副作用が目立つようになるとされています。
肝機能低下例にはベルソムラ
どちらの薬剤も肝臓で代謝を受けるために肝障害患者では血中濃度上昇リスクがあります。
血中濃度上昇に関しては、ベルソムラよりデエビゴの方がより強く影響を受けやすいとされています。
ベルソムラではchild分類のスコア10~15の重度肝機能障害患者においては慎重投与とされています。
一方、デエビゴではさらに厳しく、中等度肝機能障害患者では1日1回5㎎を上限とし、重度の肝機能障害患者では禁忌となっています。
そのため、肝機能障害が心配であればデエビゴよりもベルソムラを選択する方が良いでしょう。
ちなみに腎機能低下例に対しては、ベルソムラもデエビゴも腎機能正常者と同じように使用することが出来ます。
CYP3A4には注意
相互作用においてはベルソムラの方が注意は必要です。
ベルソムラもデエビゴもCYP3Aの代謝を受けます。
なので、イトラコナゾールはクラリスロマイシンはベルソムラでは併用禁忌ということになっています。
デエビゴ(レンボレキサント)には併用禁忌はなく、あくまで併用注意という形になっています 。
併用する場合は1日1回2.5㎎に減量する必要がありますので、こちらについても注意が必要です。
風邪の時やピロリ除菌などでは、クラリスロマイシンは頻用しますので、ベルソムラやデエビゴの服用中は併用薬チェックを行った方が良いでしょう。
食事の影響
両薬剤とも食事による影響が少なからず報告されています。
- ベルソムラはTmaxの中央値が1時間延長。
- デエビゴはCmaxが23%低下する
このような報告があります。
ライフスタイルの関係で、
寝る前の服用が難しいから夕食後でも問題ない?
という方はたくさんいらっしゃいます。
その際には、
食事の影響で若干効きが悪くなるかもしれません
と、一言伝えた方が良いでしょう。
まとめ:大まかな使い分け
- オレキシン受容体の1型:抗不安作用、2型:睡眠や覚醒のリズム
- ベルソムラは選択性なし、デエビゴは2型選択性
- オレキシン受容体薬は依存性が極めて少ない
- ベルソムラは年齢による用量調節が必要
- 作用機序の面からも、ベルソムラは悪夢が出現しやすい
- 肝障害リスク:ベルソムラ<デエビゴ
- クラリスのようなCYP3A4代謝薬との併用は注意(ベルソムラは併用禁忌)
- 食事の影響を受けやすい
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)