本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは、骨粗鬆症治療薬のビスホスホネートやビタミンD₃製剤の使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
- 年齢が若く骨折リスクが少なく長期投与:SERMや活性型ビタミンD₃が第一選択
- 大腿骨折近位部骨折リスクが高い場合:ビスホスホネート製剤が第一選択
- 各ガイドラインでも、アレンドロン酸とリセドロン酸が第一選択とされている
- 結合型エストロゲン製剤には骨粗鬆症の適応はない
- ビスホスホネート全てに骨粗鬆症の適応はあるが、骨ページェット病の適応があるのはエチドロン酸とリセドロン酸のみ
- イバンドロン酸の食事や体勢の制限時間は60分と他より長め
- SERMは閉経後でエストロゲン分泌が弱まった患者への使用が推奨
- SERMの効能・効果は、『骨粗鬆症』ではなく、『閉経後骨粗鬆症』
- ビタミンD₃製剤では、エルデカルシトールが最も各骨折に対して推奨グレードが高い
- ステロイド性骨粗鬆症に関しては、エルデカルシトールはステロイドによる尿中カルシウム排泄を助長してしまう
- ビスホスホネートで顎骨骨折等の副作用は、骨粗鬆症に用いられる用量では頻度は極めて低い
- SERMでは深部静脈血栓症の副作用に注意
- 活性型ビタミンD₃の副作用では、高カルシウム血症に注意
- ビスホスホネートは各薬剤によって腎機能低下時の対応が異なるので注意
- SERMではラロキシフェンが減量必要
吸収抑制と形成促進
骨粗鬆症治療薬は、骨吸収抑制薬と骨形成促進薬、それ以外のお薬で大きく3つに大別されています。
- 骨吸収抑制薬:ビスホスホネート、抗RANKL抗体、SERM、カルシトニン
- 骨形成促進薬:副甲状腺ホルモン、抗スクレロスチン抗体
- それ以外:活性化ビタミンD₃、ビタミンK₂
全て骨粗鬆症に対して効果がありますが、作用機序はそれぞれで異なります。
骨密度 | 椎体骨折 | 非椎体骨折 | 大腿骨 近位部骨折 |
||
カルシウム | L-アスパラギン酸Ca | B | B | B | C |
リン酸水素Ca | B | B | B | C | |
女性ホルモン | エストリオール | C | C | C | C |
結合型エストロゲン | A | A | A | A | |
エストラジオール | A | B | B | C | |
活性型ビタミンD₃ | アルファカルシドール | B | B | B | C |
カルシトリオール | B | B | B | C | |
エルデカルシトール | A | A | B | C | |
ビタミンK₂ | メナテトレノン | B | B | B | C |
ビスホスホネート | エチドロン酸 | A | B | C | C |
アレンドロン酸 | A | A | A | A | |
リセドロン酸 | A | A | A | A | |
ミノドロン酸 | A | A | C | C | |
イバンドロン酸 | A | A | B | C | |
SERM | ラロキシフェン | A | A | B | C |
バゼドキシフェン | A | A | B | C | |
カルシトニン | エルカトニン | B | B | C | C |
サケカルシトニン | B | B | C | C | |
副甲状腺ホルモン | テリパラチド (遺伝子組換え) |
A | A | A | C |
テリパラチド酢酸塩 | A | A | C | C | |
抗RANKL抗体 | デノスマブ | A | A | A | A |
その他 | イプリフラボン | C | C | C | C |
ナンドロロン | C | C | C | C |
治療と予防の目的
骨粗鬆症のガイドラインでは、骨粗鬆症の治療と予防の目的は、
『骨折を予防し、骨格の健康とQOLの改善を図ること』
とされています。
年齢が若く骨折リスクが少ない場合の患者で、長期の投与が見込まれる場合には、SERMや活性型ビタミンD₃が第一選択となります。
対して、
大腿骨折近位部骨折リスクが高い場合には、ビスホスホネート製剤が第一選択となります。
多数の骨折があり、高齢者の場合は、抗RANKL抗体や副甲状腺ホルモン、抗スクレロスチン抗体の投与も考慮します。
併用療法では、ビスホスホネートのアレンドロン酸と活性型ビタミンD3のアルファカルシドールの併用が、新規の椎体骨折抑制などに対して高い効果を示すと報告されています。
骨粗鬆症のガイドラインでは、大腿骨近位部骨折の抑制効果があるのは、結合型エストロゲン、アレンドロン酸、リセドロン酸、デノスマブとされています。
結合型エストロゲンに関しては、骨粗鬆症の適応はありませんので注意が必要です。
骨吸収抑制薬
ビスホスホネート
骨吸収抑制薬で代表的なものは、ビスホスホネート製剤です。
ビスホスホネートは酵素による分解を受けず、代謝されにくい性質を持っています。
その為、週1回や月1回の投与で問題ない製剤が多くあります。
骨に取り込まれたビスホスホネートは、特異的に破骨細胞に取り込まれます。
ビスホスホネートを取り込んだ破骨細胞は、アポトーシスが促進され、骨吸収が抑えられることとなります。
ビスホスホネートの全ての製剤で骨粗鬆症の適応がありますが、骨ページェット病の適応があるのはエチドロン酸とリセドロン酸のみとなっています。
大腿骨近位部骨折に対しては、各ガイドラインでも、アレンドロン酸とリセドロン酸が第一選択とされています。
アレンドロン酸 | ミノドロン酸 | リセドロン酸 | インバドロン酸 | ||
効能・効果 | 骨粗鬆症 | 骨粗鬆症 | ①骨粗鬆症 ②骨ページェット病 |
骨粗鬆症 | |
服用時に立位または 座位を保持する時間 |
30分 | 60分 | |||
妊婦 | ‐ | 禁忌 | 禁忌 | ‐ | |
高度な腎機能障害 | ‐ | 禁忌 | 禁忌 | 禁忌 | |
推奨グレード | 骨密度 | A | A | A | A |
椎体骨折 | A | A | A | A | |
非椎体骨折 | A | C | A | B | |
大腿骨 近位部骨折 |
A | C | A | C | |
ステロイド性骨粗鬆症 | A | C | A | B | |
海外での承認 | あり | なし | あり | あり |
エチドロン酸:
ビスホスホネートの中では第一世代に分類されますが、安全域が他と比べて狭い上、骨粗鬆症に有用な用量の2倍量で骨軟化症を引き起こすことがあるので注意が必要です。
ミノドロン酸:
『もっとも強力な骨吸収抑制作用を有する』とされていますが、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折を抑制する報告はないと述べられています。
イバンドロン酸:
大腿骨近位部骨折を抑制する報告がないとされていて、第一選択が使用出来ない時の代替薬の位置付けとなっています。
ちなみにイバンドロン酸以外のビスホスホネートは、服用後に横にならないことや飲食しないことの制限時間が30分なのに対し、イバンドロン酸は60分と長めです。
これはイバンドロン酸服用後に30分絶食と60分絶食を比べたところ、体内動態や骨密度増加率に違いが認められたからとされています。
SERM
SERMは選択的エストロゲン受容体モジュレーターと呼ばれていて、各部位によって作用が異なります。
乳房や子宮では抗エストロゲン作用を持ちますが、骨や脂質代謝なおいてはエストロゲン作用を引き出します。
その為、閉経後でエストロゲン分泌が弱まった患者への使用が推奨されています。
SERMの効能・効果は、『骨粗鬆症』ではなく、『閉経後骨粗鬆症』となっています。
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骨形成促進薬
副甲状腺ホルモン
副甲状腺ホルモンのテリパラチドは、前駆細胞から骨芽細胞への分化を促進する作用を持っています。
更に、骨芽細胞のアポトーシス抑制作用もあるので、
骨芽細胞>破骨細胞
というように傾き、骨粗鬆症に効果があります。
ただし、ロモソブマブは1年間、テリパラチドは投与期間が2年間に制限されています。
投与期間終了後は、ビスホスホネートなどによる治療の継続が必要となるため、しっかりと治療スケジュールを組む必要があります。
それ以外
活性型ビタミンD₃
活性型ビタミンD₃は、小腸からのカルシウムの吸収促進作用が主な作用です。
それ以外に、カルシウムの代謝調節作用やフィードバックによる副甲状腺ホルモンの調節機能も併せ持ちます。
日本では主にカルシトリオール、アルファカルシドール、エルデカルシトールの3つが使われています。
アルファカルシドールが肝臓で構造式の25位が水酸化されると、カルシトリオールに変換されます。
3つの中では、エルデカルシトールが最も各骨折に対して推奨グレードが高いです。
カルシトリオール | アルファカルシドール | エルデカルシトール | ||
効能・効果 | ・骨粗鬆症慢性腎不全 ・副甲状腺機能低下症 ・くる病・骨軟化症におけるビタミンD代謝異常に伴う諸症状(低カルシウム血症、しびれ、テタニー、知覚異常、筋力低下、骨痛、骨病変等)の改善 |
骨粗鬆症 | ||
半減期(hr) | 16.2 | 17.6 | 53 | |
推奨グレード | 骨密度 | B | B | A |
椎体骨折 | B | B | A | |
非椎体骨折 | B | B | B | |
大腿骨 近位部骨折 |
C | C | C |
アルファカルシドールやカルシトリオールは小腸からのカルシウム吸収促進作用が主ですが、エルデカルシトールはそれに加えて骨代謝改善があるとされています。
エルデカルシトールは他の2つと比べてビタミンD₃結合タンパクに対する親和性が強く、半減期も3倍近く長いことも特徴です。
ビタミンD₃製剤は単剤だと骨折抑制効果は低いとされていますが、ビタミンDは不足することで他の骨粗鬆症治療薬の効果が減弱するので、ビタミンD₃製剤と他の製剤との併用は有用とされています。
ビスホスホネートで治療中のビタミンD不足で生じた荷重長管骨骨折は、アルファカルシドールの併用で有意に抑制された報告もあります。
エルデカルシトールに関しては、単剤でも一定の効果は期待されています。
ガイドラインでは、骨折抑制効果は
アルファカルシドール<エルデカルシトール
とされています。
ただし、適応に関してはエルデカルシトールは骨粗鬆症の適応しかありませんので、くる病や骨軟化症、副甲状腺機能低下症には使えませんので注意が必要です。
ステロイド性骨粗鬆症に関しては、エルデカルシトールはステロイドによる尿中カルシウム排泄を助長するとして、勧められてはいません。
なので、ステロイド性骨粗鬆症に関しては、
- グレードB:アルファカルシドール、カルシトリオール
- グレードC:エルデカルシトール
という形になっています。
このところに関しては、推奨するだけのデータが不足していることもあるようです。
ビタミンK₂
ビタミンK₂のメナテトレノンは、骨芽細胞に直接作用し、骨形成を促進と骨吸収の抑制作用があります。
副作用
ビスホスホネートで有名な副作用では、顎骨骨折や非定型大腿骨骨折ですが、骨粗鬆症に用いられる用量では頻度は極めて低いとされています。
- ビスホスホネートを3年以上投与
- 顎骨壊死のリスクが高くない場合
このような場合は、抜歯では休薬することや口腔ケアが望ましいとされています。
SERMでは深部静脈血栓症が有名で、肥満やがんの患者ではリスクが高まりますので、注意が必要となります。
活性型ビタミンD₃の副作用では、高カルシウム血症が多い印象です。
その為、定期的な血液検査でカルシウム値チェックが推奨されています。
ステロイド性骨粗鬆症
ステロイド性骨粗鬆症の第一選択は、ガイドラインではビスホスホネート製剤のアレンドロン酸、リセドロン酸となっています。
ビタミンD₃の中でもエビデンスが高いエルデカルシトールは、
『ステロイドによる尿中カルシウム排泄増加を促進させてしまう』
このような報告がありますので、勧められていません。
腎機能低下時
ビタミンD₃製剤は、高カルシウム血症に注意しながらであれば、基本的には腎機能正常者と同じように使えます。
ビタミンK₂やイプリフラボンも腎機能正常者と同じ扱いでOKです。
ビスホスホネートに関しては製剤毎に対応が分かれます。
基本的にはビスホスホネートの代謝は腎臓依存の為、腎機能低下例の場合は、注意が必要です。
アレンドロン酸:腎機能正常者と同じ扱いで問題はありませんが、半減期が著名に延長することだけは理解しておく必要があります。
イバンドロン酸:AUCの上昇があるため慎重投与となっています。
CCr<30でAUCが約3倍になった報告もありますので、内服に関しては投与は推奨されていません。
エチドロン酸:減量の必要があり、CCr<10では禁忌扱いとなっています。
パミドロン酸:腎機能正常者と同じですが、CCr<30では慎重投与扱いです。
ミノドロン酸:腎機能正常者と同じか慎重投与でOKです。
リセドロン酸:CCr<30までは正常者と同じか慎重投与ですが、それ未満になると禁忌扱いになります。
SERMはCKD患者でのAUC増加が報告されています。
ラロキシフェンは減量が必要で、CCr<10では2~3日の間隔を空けての投与となります。
バゼドキシフェンは腎機能正常者と同じ扱いでOKです。
抗RANKL抗体や副甲状腺ホルモンは、CCr<30までは腎機能正常者と同じですが、それ未満になると慎重投与扱いです。
副甲状腺ホルモン製剤の場合は、CCr<30未満の時に副甲状腺機能亢進症が認められている場合には禁忌扱いとなるため注意が必要です。
ちなみに、活性型ビタミンD₃は腎機能低下例では血清カルシウム値の上昇が起こりやすく、逆に抗RANKL抗体は低カルシウムをきたしやすくなります。
まとめ:大まかな使い分け
- 年齢が若く骨折リスクが少なく長期投与:SERMや活性型ビタミンD₃が第一選択
- 大腿骨折近位部骨折リスクが高い場合:ビスホスホネート製剤が第一選択
- 各ガイドラインでも、アレンドロン酸とリセドロン酸が第一選択とされている
- 結合型エストロゲン製剤には骨粗鬆症の適応はない
- ビスホスホネート全てに骨粗鬆症の適応はあるが、骨ページェット病の適応があるのはエチドロン酸とリセドロン酸のみ
- イバンドロン酸の食事や体勢の制限時間は60分と他より長め
- SERMは閉経後でエストロゲン分泌が弱まった患者への使用が推奨
- SERMの効能・効果は、『骨粗鬆症』ではなく、『閉経後骨粗鬆症』
- ビタミンD₃製剤では、エルデカルシトールが最も各骨折に対して推奨グレードが高い
- ステロイド性骨粗鬆症に関しては、エルデカルシトールはステロイドによる尿中カルシウム排泄を助長してしまう
- ビスホスホネートで顎骨骨折等の副作用は、骨粗鬆症に用いられる用量では頻度は極めて低い
- SERMでは深部静脈血栓症の副作用に注意
- 活性型ビタミンD₃の副作用では、高カルシウム血症に注意
- ビスホスホネートは各薬剤によって腎機能低下時の対応が異なるので注意
- SERMではラロキシフェンが減量必要
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)