新型コロナウイルスが猛威を振るう中、ワクチン接種も随時行われています。
今回は新型コロナウイルスとワクチンの特徴と、従来のワクチンと何が違うのかをお話しようかと思います。
コロナウイルス
名前の由来
ウイルスの形を輪切りにすると王冠に見える事から、コロナと名付けられています。
コロナはギリシャ語で王冠を意味します
新型コロナウイルス
2002年~2003年に流行ったSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年に中東で流行ったMARS(中東呼吸器症候群)と同じコロナウイルスの仲間です。
今回の新型コロナウイルスは、SARSに非常に似ているため、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-Cov-2)と名付けられました。
SARS-Cov-2による感染症の事をCOVID-19といいます。
SARS-Cov-2による感染症の名前:COVID-19
コロナウイルスは今回のSARS-Cov-2のみを指すのではなく、風邪などの原因のウイルスも15%はコロナウイルスによるものとされています。
感染拡大の特徴
新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの違いは、潜伏期間にあります。
インフルエンザの場合は、体内のウイルス量がある程度増えて症状が出始め、感染リスクが増大します。
インフルエンザのおよそ90%が、発症後に他者に感染させるケースです。
しかし、新型コロナウイルスの場合、ウイルスが体内で増えても80%は軽症、無症状なことが多く、感染リスクが高いことが特徴です。
その為、本人が無自覚の内に周囲に感染を拡げてしまう可能性が高いため、感染拡大を防ぐ事が難しいのです。
新型コロナウイルスの経過
感染から約5日目が最も発症しやすいと言われています。
発症から1週間が経過した辺りで、軽症、回復もしくは中等症に移行するかが決まってきます。
約80%は改善に向かい、約20%は中等症へ移行します。
中等症は呼吸困難や咳、喀痰が主な症状です。
全体の5%は重症へ移行し、約半数が死に至ります。
重症まで移行してしまうと、一気に致死率が上がります。
最終手段として、体外式膜型人工肺(ECMO)が使用されますが、ECMOを使用しても生存率は50%です。
PharmaStyle No.8 May 2021 P6より
ウイルスの侵入メカニズム
詳細なメカニズムはまだ不明です。
私たちの細胞表面にある受容体(アンギオテンシン変換酵素2:ACE2)に結合することで、細胞内にウイルスが侵入するケースが有力視されています。
ワクチンの種類
ウイルスワクチン
ウイルスを弱毒化して使う生ワクチンと、バラバラに分解するなどして使う不活化ワクチンがあります。
生ワクチンは弱毒化が上手くいかなかった時のリスクなどもあります。
その為、インフルエンザワクチンなど、多くのワクチンはこの不活化ワクチンです。
身体はウイルス情報を覚えて、免疫を獲得するというメカニズムになっています。
ワクチンの造り方 | 高橋医院 (hatchobori.jp)より
核酸ワクチン
DNAワクチンとRNAワクチンの2種類がありますが、新型コロナウイルスワクチンはRNAワクチンです。
新型コロナウイルスのワクチンは、mRNAワクチンと呼ばれています。
mRNAは身体の中でウイルスのスパイクタンパクを作り出します。
作られるのはスパイクタンパクだけであって、ウイルスそのものではありません。
身体はスパイクタンパクを異物と判断して、免疫を獲得するというメカニズムになっています。
mRNAは不安定で、すぐ分解されてしまうため、ワクチンとしての製剤にするためには安定化する必要があります。
安定化させるためにmRNAを脂質ナノ粒子で覆うのですが、この脂質ナノ粒子の成分が副反応やアナフィラキシーの原因とされています。
DNAワクチンではRNAから体内で作るため、抗体産生速度や有効性はmRNAワクチンに比べると低下する可能性はありますが、脂質ナノ粒子膜を使用しない分、安全性は高いと考えられています。
組み換えタンパク質ワクチン
スパイクタンパクを人工的に作り出したワクチンです。
スパイク部分のみなので、効果は高いと推測されますが、製造に時間がかかるとされています。
ウイルスベクターワクチン
風邪などのアデノウイルスにスパイクタンパクなどの遺伝情報を入れたタイプのワクチンです。
風邪などのアデノウイルスへの感染歴がある場合、有効性が低下することがあります。
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mRNAワクチンの有効率は90%以上
インフルエンザワクチンの有効率は40~50%程度となっていますが、mRNAワクチンの有効率は90%以上と言われています。
ファイザー社のmRNAワクチン:95.0%
モデルナ社のmRNAワクチン:94.1%
アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン:62.1%
1) 2021年2月26日時点
ワクチンにより免疫を作り出す
理想的なワクチンによる効果は、液性免疫と細胞性免疫の両方が反応してくれることです。
細胞性免疫:マクロファージやNK細胞などが異物を除去する免疫
液性免疫は発症予防、細胞性免疫は重症化予防に貢献すると言われています。
不活化ワクチンや組み換えタンパク質ワクチンは主に液性免疫の誘導が強いとされています。
しかし、核酸ワクチンでは、液性免疫と細胞性免疫の両方を誘導する作用があります。
変異型ウイルス
感染拡大が収束にしにくい理由のもうひとつに変異型ウイルスが上げられます。
当初、日本で流行した第1波ウイルスは武漢型ウイルスでしたが、第2波はヨーロッパ型ウイルスです。
変異型はウイルスのスパイクタンパクが変異して生じます。
現在2021年6月時点では南アフリカ型、イギリス型、インド型、ブラジル型等と様々変異型ウイルスが増えてきています。
RNAワクチンで作られるのはあくまでもスパイクタンパクです。
変異型ウイルスのスパイクタンパクが類似していれば、ある程度の効力はあるとされています。
しかし、スパイクタンパクが明らかに異なる変異型ウイルスに対しては、当然ながら効力は低下する可能性があります。
そのようなウイルスに対してはワクチンの再開発が必要となります。
副反応
通常、海外の薬を日本で審査、承認する際には投与量を1/2程度に抑えます。
これは外国人と比べて日本人の体格が小さいことが関係しています。
しかし、今回のワクチンような緊急性が高い場合は、外国と同じ投与量で設計します。
その為、日本人での副反応の発生頻度は、若干高くなっている傾向にあります。
その他の症状
疲労(1回目:40.3% 2回目:60.3%)
頭痛(1回目:32.8% 2回目:44.0%)
悪寒(1回目:25.2% 2回目:45.7%)
ワクチン接種2回目の方が、副反応の出現率は高くなっています。
私もファイザー社のワクチンを接種しましたが、副反応は2回目の方が強かったです。
副反応は一過性のもので、重篤になるケースも少ないですが、それでもアナフィラキシーなどの症状は認められています。
メカニズムはまだハッキリとはしませんが、ワクチンを包む脂質ナノ粒子膜が関係している可能性が示唆されています。
現在、アナフィラキシーの発生頻度は10万人に1人の割合(0.001%)とされています。
インフルエンザワクチンは100万人に1人の割合です。
インフルエンザワクチンに比べれば多いものの、全体では低頻度なことや、アナフィラキシー対策が出来ていればさほど心配はないとされています。
ちなみにアナフィラキシーショックは、若い女性に。心筋炎は若い男性に多いとされています。
ウイルスベクターワクチンによる血栓による死亡例は報告されていますが、こちらに関しては未だメカニズムが良くわかっていない現状です。
集団免疫
ワクチンの目的は個人の発症予防、重症化予防だけではなく、いち早く集団免疫をつける事も目的とされています。
集団において人口の7割に抗体がつけば、感染拡大は収束に向かうとされています。
その為、出来るだけ早期に人口の7割にワクチン接種が行われることが望まれています。
感染経路は口が最も多い
舌の表面にはウイルスタンパク質のスパイクと結合するACE2受容体が多いことがわかっています。
その為、経口からの感染防止のために、手洗いやマスクは非常に重要となります。
本人の免疫状態により、感染しても免疫能力が上回り発症しない、もしくは発症しても重症化しないケースは十分に考えられます。
その為、免疫を維持する生活習慣は非常に重要なのです。
最後に
新型コロナウイルスは自分だけではなく、自覚がないまま周りの人たちにも影響を与えてしまうかもしれないことが厄介なところです。
自分だけではなく、周りの大事な人を守る意味でも手洗い、マスク、規則正しい生活習慣を心掛けたいものですね。
ではでは。
※今回のワクチン等の情報は2021年4月23日時点の情報を元に作成されました。
最新の情報との差異にご注意下さい。→2021年11月11日追記
参考文献
1)日本感染症学会 COVID-19ワクチンに関する提言(第2版)2021年2月26日時点
PharmaStyle No.8 May 2021 P5ー11