本記事は私の薬剤師業務のあんちょこ、備忘録として記録しています。
ここでは糖尿病治療薬のαグルコシダーゼ阻害薬の使い分けをまとめています。
私の業務経験や各書籍の情報を基に作成していますので、医療業務の参考になれば幸いです。
先にまとめ:大まかな使い分け
- 基本的に食前服用だが、食事開始後15分までならOK
- アカルボースにはαアミラーゼ阻害作用もある
- ミグリトールが最も多くの酵素を阻害する
- 他と比較して、ミグリトールがHbA1cを下げる作用が大きい
- αグルコジターゼ間で、副作用の特徴に差はない
- 副作用のお腹の張りなどは、一般的には徐々に消失する
- 低血糖時はブドウ糖で対処
- 腎機能低下例は慎重投与
糖尿病治療薬の選択
1型の場合はインスリン製剤が絶対的な適応になりますが、2型の場合は段階を踏みます。
いきなりSU剤を使うDr.もいますが、ガイドラインに沿うとビグアナイド系(メトホルミン)が第一選択になってます。
ちなみに『アメリカ糖尿病学会』『ヨーロッパ糖尿病学会』『日本糖尿病・生活習慣病ヒューマン学会』全部が推奨してますが、現場の主治医の判断に任せてる印象です。
ビグアナイド系(メトホルミン)は、インスリン分泌を促進することなく血糖を改善してくれます。
80歳以上や腎機能に問題があれば、DPP-4阻害薬も第一選択になります。
『糖尿病標準診療マニュアル』では、
- 最初数ヶ月は食事・運動療法で様子を見ます。
- それでダメなら薬を使います。
- 薬を使う場合は基本的には1剤使って様子見。
- 数ヶ月様子見てダメならもう1剤追加。
このような使い方をします。
詳しくはこちらをどうぞ。
糖尿病標準診療マニュアル – 一般社団法人 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会 (human-data.or.jp)
評価判定に一番使われる指標は、HbA1c<7%に近づいてるかどうかです。
- 年齢や腎機能に問題なければ、ビグアナイドを選択。
- ダメならDPP4阻害薬を上乗せ。
- それでもダメなら、SU剤、SGLT2阻害薬、αグルコジターゼ阻害薬、チアゾリジン系などを組み合わせる。
このような形です。
ただ、心血管疾患の既往や心不全、微量アルブミン尿、蛋白尿、肥満を有する場合などには、SGLT2阻害薬を優先して使用する場合もあります。
また、eGFR が十分に保たれていない場合は GLP-1受容体作動薬の追加を推奨している場合もあります。
ちなみに欧米人はインスリン抵抗性が多いのに対して、日本人はインスリン分泌不全が多いのが特徴です。
なので、まずは食事や運動で身体のインスリン機能の改善化を図ります。
αグルコジターゼ阻害薬の使い分け
アルファグルコシダーゼ阻害薬は主に3つです
- ボクリボース(ベイスン)
- ミグリトール(セイブル)
- アカルボース(グルコバイ)
の3つになります
αグルコシダーゼ阻害薬は、小腸内でαグルコシダーゼの活性を阻害することで2糖類の分解を阻害して糖の吸収を遅延させます。
その結果、食後の高血糖高インスリン血症を抑える効果が期待出来ます。
作用の特性上から食前に服用することが原則です。
しかし、食事開始15分までなら効果が認められています。
アカルボース
アカルボースに関しては食後15分の服用でも有効性が報告されています。
アカルボースの特徴としては、グルコシダーゼ阻害作用の他に、αアミラーゼ阻害作用も持っています
αアミラーゼは唾液や膵液中にも存在しており、アカルボースはαグルコシダーゼだけではなくアミラーゼを阻害するので幅広く糖の分解を抑制することが可能となっています。
ボグリボース
ボグリボースに限っては、2型糖尿病の発症抑制を目的として投与する際には保険適応が認められています。
ボグリボースはマルターゼ、イソマルターゼ、スクラーゼなど多くの酵素を阻害します。
ミグリトール
ミグリトールはマルターゼやイソマルターゼの他、さらにラクターゼ、トレハラーゼも阻害します。
ミグリトールの特徴は、αグルコジターゼ阻害薬の中でも、最も多くの消化酵素を阻害出来る点です。
ちなみにでんぷんやスクロースラクトーストレハロースなど等の種類は色々ありますが 全ての分解にカバーできるのはミグリトールだけとなっています。
ほぼほぼミグリトールで阻害することが可能ですね。
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HbA1cや空腹時血糖の改善効果は弱い
単独でのHbA1cや空腹時血糖の改善効果などは他の血糖降下薬やインスリンに比べては弱いです。
特徴的な作用機序を持っているので、単剤で使うよりも他の薬剤と併用して使うのに適している薬剤と言えます。
ちなみにこの特徴的な糖の分解を阻害する作用により、1型糖尿病患者でも使用できる薬剤となっています。
ミグリトールの効果が高め
添付文書上では、2型糖尿病患者への使用に限定されていない経口糖尿病薬でもあります。
インスリンとの併用で食後高血糖が抑制されることが示されてはいますが、大血管症発症リスクの低下を示唆する報告は十分なエビデンスはありません。
エビデンスはありませんが、日本人患者における国内多施設非盲目試験では、ミグリトールが他剤と比較して、HbA1c低下作用が強く見られた結果があります。
副作用
αグルコシダーゼの主な副作用に、腹部膨満感や放屁増加の症状があります。
これは、薬理作用である腸管内における糖質の消化吸収遅延によって未消化の糖質が大腸に達して腸内細菌によって分解発酵された際に生じたガスに起因することが考えられます。
一般的には時間の経過とともに消失することが多いです。
徐々に応じて減量あるいは消化管内ガス駆除剤の併用を考慮して、耐えられない場合は投与を中止する必要があります。
ちなみに腹部膨満や下痢、放屁の増加、肝障害など副作用はありますが、各薬剤の間で特徴的な差はありません。
相互作用
αグルコシダーゼは併用禁忌に該当する薬剤はありません。
ただ、ミグリトールとアカルボースではジゴキシンとの併用によりジゴキシンの血中濃度が低下するおそれがあるため注意が必要です。
単独で低血糖症状を起こすことはごくごく稀ですが、もし低血糖症状が起きた場合はブドウ糖あるいはブドウ糖が入っている飲料を与えなければ低血糖症状は改善されませんので注意が必要です。
現場ではαグルコシダーゼ阻害薬だけを使っている人は稀で、大体の場合は何かしらの血糖降下薬を併用していますので、ここのところの服薬指導は結構大事です。
腎機能低下例
腎機能低下例については、禁忌にはなっていません。
低下例でも普通に使えますが、重篤な腎機能低下例には慎重投与扱いです。
クレアチニンクリアランス25未満では、アカルボースではAUCが4~5倍の上昇が報告されてますので、ご注意下さい。
アカルボースとミグリトールに関しては透析により除去されることが認められています。
まとめ:大まかな使い分け
- 基本的に食前服用だが、食事開始後15分までならOK
- アカルボースにはαアミラーゼ阻害作用もある
- ミグリトールが最も多くの酵素を阻害する
- 他と比較して、ミグリトールがHbA1cを下げる作用が大きい
- αグルコジターゼ間で、副作用の特徴に差はない
- 副作用のお腹の張りなどは、一般的には徐々に消失する
- 低血糖時はブドウ糖で対処
- 腎機能低下例は慎重投与
最後に
大まかな使い分けは以上となります。
医療業務の参考になれば幸いです。
ではでは。
参考文献
今日の治療薬2022
第3版腎機能別薬剤投量POCKETBOOK
各薬剤添付文書
基礎からわかる類似薬の服薬指導(ナツメ社)