ダイエットの停滞期などで使われるチートデイですが、根拠はあるのでしょうか?
今回はチートデイで考えられるメカニズムや効果、やり方を調べてみました。
チートデイとは
チートデイとは、減量時による停滞期を打破すべく、一時的に代謝を上げるために、1日だけ何でも食べて良い日を設定することです。
1日ではなく、一食だけに限定する場合はチートミールとも呼ばれています。

身体を騙すということで、『チート』と呼ばれています。
本当に過食により代謝は上がるのか?
身体の中の代謝にはいくつかの種類があります。
チートデイに関わる代謝は、食事誘発性熱産生(SDA)と呼ばれる代謝です。
SDA:食事誘発性熱産生とは?
食べ物を消化、吸収を行う過程ではエネルギーが必要になります。
消化や吸収が盛んになるのは、食後5~6時間です。
この時に起こる熱産生の増加のことをSDA(食事誘発性熱産生)と呼ばれています
矛盾しているようですが、エネルギーとなる食べ物を処理するために、エネルギーを消費しなくてはいけません。
SDAはエネルギー摂取量の10%に相当すると言われています。

2000kcal摂取したら、200kcalがSDAで消費されるという計算になりますね。
SDAで発せられるエネルギー量は栄養素によって違う
食べ物に含まれる栄養素によってSDAの比率は変わってきます。
- 糖質:約6%
- 脂質:約4%
- たんぱく質:約30%
たんぱく質>糖質>脂質の順に使われるエネルギー量は大きくなります。1)
ダイエット時にたんぱく質を摂取しないといけない理由は、筋肉量の維持だけではなく、SDAを高める理由もあるのです。
SDAには脂肪細胞が関係している。
SDAでの代謝亢進には、脂肪細胞が大きく関係しています。
脂肪細胞には2種類あります。
褐色脂肪細胞
褐色脂肪細胞は熱産生(エネルギー消費)に関わる脂肪細胞で、赤ちゃんやげっ歯類に多いとされています。
個人差は大きいですが、成人でも褐色脂肪細胞は存在しています。
外部の気温が低いほど活発になることが知られています。
白色脂肪細胞
白色脂肪細胞は脂肪を貯蔵する為の細胞で、一般的に『脂肪』というのはこちらをさします。
チートデイはSDAの機能を使った手法
SDAのメカニズム
食事により白色脂肪細胞が刺激されると、レプチンと呼ばれる物質が分泌されます。
レプチンは『食欲抑制ホルモン』とも呼ばれています。
レプチンは血流に乗って、脳(視床下部)に作用して食欲抑制作用や、交感神経の活性化を介して褐色脂肪細胞に働きかけます。
その結果、食べ物を消化する為のエネルギーを産生するために、褐色脂肪細胞で熱産生が行われます。

視床下部は、体温の調節を担う脳の部位です。
レプチンと食欲との深い関係 | 高橋医院 (hatchobori.jp)より
これらの流れでSDAが機能して代謝が高まります。2)
炭水化物でレプチン濃度が上昇する
炭水化物食と脂質食をそれぞれ3日間、過剰摂取させました。
その結果、脂質食の方はレプチン濃度に変化はありませんでしたが、炭水化物食の方は28%レプチン濃度が上昇する結果となりました。
そして代謝も7%増加したそうです。3)
研究ではチートデイのように1日ではなく、3日間の過食でした。
この研究通りであれば、チートデイは複数日行うことも可能だと推察出来ます。
しかし、チートデイを複数日行うことにより、自制心が利かなくなったり、チートデイの過剰カロリーの清算に時間がかかるデメリットが考えられます。
チートデイで期間を空けなければならない理由。
と思うかもしれませんが、そう上手くは行きません。
過食を続けるとレプチンの効果は徐々に下がることが確認されています。
脂肪が多いほどレプチン量が多い
レプチンの産生は白色脂肪細胞の量に比例します。
レプチンの役割は、エネルギー過剰の状況に対して、これ以上の体重増加を防ぐブレーキ役というのが本来の役割です。
エネルギーを過剰に摂取している状況では、白色脂肪細胞に褐色脂肪細胞の一部が発現することが報告されています。2)

つまり、過食によりレプチンの作用が増強されるということです。
しかし、過食が続けばさすがにカロリー過多で脂肪は蓄積されます。
そしてひとたび肥満になってしまうと、今度はレプチンの抵抗性が始まってしまい、褐色脂肪細胞が働かなくなってしまうのです。
レプチンのブレーキ役が出てくる
過食を一週間も続けると、肝臓でのグルコキナーゼと呼ばれる物質が上昇してきます。
グルコキナーゼはレプチンのブレーキ役のような作用をしてしまいます。
肝臓でのグリコーゲン合成が盛んになる代わりに、褐色脂肪細胞の働きが弱くなってしまいます。
グルコキナーゼが上昇したことで、シグナルが脳に伝達されて交感神経が低下します。
結果的に褐色脂肪細胞の不活性化に繋がっているとされています。
ちなみに、過食一週間では、まだ血中のレプチン濃度は上昇しています。
しかし、グルコキナーゼにより交感神経が上手く作用しない為、褐色脂肪細胞の働きが弱くなる。
そんな状況になっているのです。
つまり、グルコキナーゼがレプチンの作用を抑えているということになります。2)
痩せてる人の方が褐色脂肪細胞は作用しやすい
褐色脂肪細胞は体脂肪率が少ない人の方が多く働く事がわかっています。4)

つまり、太れば太る程、痩せにくくなるということです。
逆も然りです。
チートデイの間隔が体脂肪率が低く人ほど短いのはこうした理由もあります。
そして、体脂肪率が高いとチートデイは必要ないと言われています。
それは、体脂肪率が高い人は褐色脂肪細胞の働きが弱く、過食が逆効果になりかねないということでもあるのでしょう。
身体には様々な代謝がある。
という声もありそうですが、物事には限界があります。
身体の代謝と言うのはSDAだけではありません。
基礎代謝や安静時代謝など他にもあります。
安静時代謝
安静時代謝は座るか横になるかの状態で、安静に過ごしている時の代謝をさします。
基礎代謝量の10%~20%増しが目安となります。
ちなみに睡眠時の代謝は基礎代謝と同じとされています。
他にも運動などによる身体活動量による代謝や、寒さに反応する代謝(寒冷誘発性熱産生)など、様々な代謝があります。
基本的に体重が重い方が代謝は大きい
食事に関係するSDAは痩せてる方が代謝は高いです。
しかし、その他の代謝については、逆に太っている方が代謝は大きいのです。
停滞期は来るべくして来る
SDAよりも他の代謝の総エネルギー消費の方が大きいです。
つまり、ダイエットでは摂取カロリーを徐々に下げるか、消費カロリーを徐々に上げる必要があります。
そうしないと、どこかのタイミングで摂取カロリー = 消費カロリーとなる時期が来てしまいます。
消費カロリー>摂取カロリーが僅差である場合は、体脂肪が減らない時期が早めにきてしまうでしょう。
しかし、だからと言って急激に痩せてしまうと、身体は生命維持を優先して代謝が落ち、停滞してしまいます。
そして、後述するレプチン濃度の低下も相まって、いくつかの要因が合わさります。
その為、停滞期というものは来るべくしてやってくるのです。
朝の方がSDAは高い
SDAが時刻に関係するかを調べた試験があります。
朝型群:7時・13時・19時
夜型群:13時・19時・1時
結果はSDAは夜型よりも、朝型に高い傾向となったのです。
その差は0.224±0.007kcal/㎏/9hと微々たる物ですが、積み重なると大きなカロリーとなります。5)

体重50kcalの人だと、約11kcalの差です。
少しでも代謝を上げたい人や、チートミール等を行う時は、朝に食べることをおすすめします。
チートデイに対する個人的な見解
食べ物
チートデイの多くは、『好きな物を好きなだけ食べても良い』ということになっていますが、ある程度の栄養素の配分は気にした方が良いです。
たんぱく質は最低限摂取すること
たんぱく質がもっともSDAの比率が高いため、たんぱく質量に関しては、筋量維持の意味合いも含めて、少なくてもたんぱく質1g/㎏は摂って欲しいところです。
炭水化物は積極的に摂取すること
そして、炭水化物を摂取することでレプチン濃度が上昇することが確認されています。3)
脂肪食ではレプチン濃度に影響がなかった点からも、チートデイを行うのであれば炭水化物は必須と言えるでしょう。
摂取カロリー量はある程度把握しておく事
消化不良や拒否反応でも起こさない限り、人の身体はエネルギーを溜め込み続けます。
貯蓄量の限界は個人により異なりますが、基本的に身体の中に入った食べ物はエネルギーに変換されると考えて良いでしょう。
レプチンによる『SDA亢進』により、チートデイで食べた物はどんどん消化、代謝されていきます。
しかし、SDAの代謝能も、食べた物や個人の条件により異なりますので、過食による効果でどれぐらいカロリーが代謝出来たかは一概には言えないところです。
その為、食べた物のほとんどがエネルギーになるのであれば、過剰カロリーは把握しておいた方が良いでしょう。
つまり、1000kcal過剰にエネルギー摂取をした状態です。
チートデイ後に元の生活を続けた場合、過剰カロリーを消費出来るまでに5日間かかる計算です。
過食一週間後にグルコキナーゼが上昇した報告もあるので、この先一週間以内で清算出来ないカロリーを摂取することは控えた方が良さそうです。
先程の場合だと、チートデイでのカロリー摂取は3400kcal以内が望ましいと思われます。
チートデイ後は代謝が上がっているので、更に早く消費出来るでしょうが、レプチンの主な代謝亢進は24時間と報告があります。
過度に期待しすぎるのはやめた方が良いでしょう。
チートデイの間隔
チートデイの間隔に関しては、一律で『一週間』や『二週間』などの間隔設定が多くあります。
しかし、今回の『レプチン』や『褐色脂肪細胞』の件から、個人的には体脂肪率によって間隔を変える方法を推奨します。
ですが残念ながら、具体的な体脂肪率毎の設定はわかりません。

参考文献が見つからなくて申し訳ございません・・・。
少なくても、『肥満』の体脂肪率の人はチートデイは避けた方が良いでしょう。
- 『肥満』: チートデイ必要なし
- 『軽度肥満』:チートデイが必要か怪しい範囲
- 『標準以下』:チートデイOK
停滞期が来るまでがチートデイの間隔
間隔の設定に関しては、少なくても前回のチートデイで摂取した、過剰カロリーの消費が終わった後の方が良いでしょう。
過剰カロリーが続けばグルコキナーゼが上昇し始め、レプチンの効果は落ちてしまいます。
さらに、24時間以上の絶食により、レプチン濃度が30%以上低下することが報告されています。6)
つまり、前回のチートデイで摂取した過剰カロリーを清算した後、身体が絶食の状態になれば、レプチン濃度は下がってきます。
この絶食の状態の身体が『停滞期の身体』ということです。
消費カロリー>摂取カロリーを続けていると、身体が絶食の状態に入ります。
チートデイ後、体重や体脂肪率がチートデイ前の水準に戻り、週単位で変動がみられなければ停滞期と判断して良いと考えます。
具体的な体脂肪率の水準は不明ですが、体脂肪率が高ければ高いほど脂肪細胞は多いため、レプチンは出やすくなります。
その為、体脂肪率が高いほど、チートデイの間隔は大きくした方が無難です。
まとめ
チートデイには科学的な根拠やメカニズムはありそうです。
メカニズムだけではなく、ダイエットのストレス解消にも効果はありそうです。
しかし、チートデイの際のカロリーの設定など、細かな点は個人でかなりの差が生まれてくるかと思います。
基本的にはカロリー代謝は日内変動があるため、週単位で考えた方が良さそうです。
- 肥満でのチートデイは逆効果
- 前回のチートデイ分の過剰カロリーを清算&レプチン濃度が低下するまでの日数を最低限空ける(停滞期になるまで待つ)
上記の2点を厳守し、体重・体調・体脂肪率の経過を観察し、ご自身にあった間隔を調整するのが良いでしょう。
最後に
今回はチートデイのメカニズムについてお話しました。
チートデイのやり方や設定方法については、人によって異なる部分はありますが、原理は同じ筈です。
チートデイはやり方を間違えると、リバウンドが怖いことで有名です。
専門家や経験者と一緒に行うことをおすすめします。
ではでは。
参考文献
1)DIT(食事誘発性熱産生)と運動時の体温調節反応(2001)
2)エネルギー代謝調節における臓器間神経ネットワークの役割(2016)
3)健康な女性被験者のエネルギー消費と血漿レプチン濃度に対する短期間の炭水化物または脂肪の過剰摂取の影響(2000)
4)成人ヒトにおける褐色脂肪組織の同定と重要性(2009)
5)食事時刻の変化が若年女子の食事誘発性熱産生に及ぼす影響(2010)
6)ピマ族インディアンの絶食に対する血漿レプチン反応